生物学において、ジェネラリストは生き残れると言われますが、ビジネスの場面ではどうでしょうか。「差別化を図らないと生き残っていけない」と肌で感じている人も多いと思います。本記事では、スペシャリスト・ジェネラリストの定義や違い、海外との比較などを紹介します。
目次
スペシャリストとは
スペシャリストとは、特定のことに「specialized=専門化した、特殊化した」人のことを言います。ビジネスにおいては、特定分野の専門的知識や高い技術力を持っていることがスペシャリストの要件である場合があります。
スペシャリストの定義
スペシャリストは、以下のように定義されています。
特定分野を専門にする人。特殊技能をもつ人。専門家。
出典:コトバンク|スペシャリスト
医者や弁護士、消防士などは、スペシャリストと言える職業例でしょう。ひとつの分野を極めることで、レベルの高い仕事を担うことができます。
ジェネラリストとは
ジェネラリストとは、「generalized=汎用の、全般性の」知識を持つ人のことを言います。ジェネラリストは、分野をまたいだ知識とビジネスにおける幅広い知見を持っています。
ジェネラリストの定義
スペシャリストの対義語として、ジェネラリスト(ゼネラリスト)という言葉があります。ジェネラリストは、以下のように定義されています。
広範な分野の知識・技術・経験をもつ人。
出典:コトバンク|ゼネラリスト
大手企業や総合商社などでは、部署間のジョブローテーションも多く、ジェネラリスト人材が多いと言えるでしょう。ある分野の知識を、別の分野に活かすことができるのは、ジェネラリストの利点ではないでしょうか。
スペシャリストとジェネラリストでの働き方の違い
スペシャリストとジェネラリストの働き方に違いはあるでしょうか。スペシャリストは、仕事内容が変わっても、分野そのものは変わりません。一方で、ジェネラリストは、分野が変わることはありえますが、仕事内容が必ずしも変わる訳ではありません。弁護士(スペシャリスト)と営業(ジェネラリスト)を例にして、キャリアを比べてみます。
スペシャリストは同一分野でキャリアアップ
弁護士は、ロースクールを卒業し司法試験に合格すると、司法修習生となります。司法修習生の期間中は、裁判所や弁護士事務所で修習を受けます。その後は、どこかの弁護士事務所に所属するか、自分自身で弁護士事務所を設立するキャリアを進みます。修習生の間は、書類や必要手続きに関する仕事などを経験します。弁護士になると、顧客に法的アドバイスをしたり、実際に法廷に立ったりする仕事内容に変化します。一連のキャリアステップの中で、仕事内容の変化はありますが、法律という分野は変わりません。
ジェネラリストの仕事内容は意外と変わらない?
営業のキャリアをみてみましょう。企業にもよりけりですが、総合商社の場合を考えます。入社後はビジネスマナーや企業についての研修を受けます。その後、配属で繊維部門や金属部門など、特定の部門の営業として配属されます。しかし、数年経つと、部門間の異動が発生します。例えば、繊維部門に所属していた営業が、インフラ部門に配属されることもあり得るのです。仕事内容としては、「川上・川下のクライアントにプロジェクトの説明をして、卸と販売を行う」ことに変わりはありませんが、繊維からインフラ、という大きな分野の変化が生まれます。
日本と海外の違い
スペシャリストとジェネラリストは、職業によっても違いがありますが、国による違いもみられます。日本はジェネラリスト志向、海外はスペシャリスト志向と言われています。
日本はジェネラリスト志向
日本は、ジェネラリスト志向が強いと言われています。理由は、年功序列制度が根付いているからだと考えられます。また、社内での部署異動もあるため、一つのスキルを極め難い環境です。
海外はスペシャリスト志向
海外は、日本よりも転職をする人の数、一人ひとりの転職回数が多いです。転職の際には、自分の強みを企業にアピールしなければなりません。「自分はこれが得意だ! 」と言えるスキルが必要になるため、スペシャリストの人が多いようです。
生物学的には、ジェネラリストの方が絶滅しにくい
東京大学大学院理学研究科による、ジェネラリストとスペシャリストはどちらが有利なのか?という、興味深い発表があります。生物の「様々な環境に対応できる“ジェネラリスト”戦略」と「特定の環境に特化した“スペシャリスト”戦略」について、微生物を用いた研究を発表しています。
絶滅したくなければジェネラリスト
研究内容によると、複数の環境下で、スペシャリストの微生物の数はジェネラリストの微生物の数よりも多いそうです。しかし、スペシャリストの絶滅率は、ジェネラリストの絶滅率よりもかなり高いことが分かっています。時代の流れや過ごす環境は、そのときどきで大きく変化します。
どのような変化にも対応できるのはジェネラリストだからこそ、だと感じます。
ダーウィンの名言に「強い者でもなく、賢い者でもなく、変化に対応できる者が生き残るのだ」というフレーズがあります。恐竜は強かったけれども、変化に対応できなかったから絶滅してしまったのですね。
スペシャリストになるのは簡単?
スペシャリストよりもジェネラリストの方が絶滅の確率が低いならば、皆ジェネラリストを目指せばいいのでは? と考える方もいるはず。同研究の発表では、ジェネラリストがスペシャリストに変化するよりも、スペシャリストがジェネラリストに変化する方が難しいと述べられています。
ジェネラリストは有利ではあるけれども「ジェネラリストであり続ける」ことが難しいことを意味しています。それぞれの環境における厳しい生存競争に勝つために、ジェネラリストはスペシャリストにならざるを得ないのかもしれません。
出典:東京大学大学院地学系研究科・理学部|ジェネラリストとスペシャリストはどちらが有利なのか? 〜ジェネラリストが駆動する微生物の進化〜
シンギュラリティの世界ではスペシャリスト
シンギュラリティという言葉が、この数年でかなり話題に上がっています。シンギュラリティは「技術特異点」という意味です。AI(人工知能)が人間を超えることを表します。私は、人間の仕事をAIやロボットが担う社会になってくると、スペシャリストの需要が高まるのではないかと考えます。ジェネラリストが対応できる、幅広い業務の一部は次第にロボットがになうようになるからです。
汎用的な仕事は機械がやってくれる
さまざまな仕事のうち、総務や経理はRPA*がやってくれる時代です。人事の業務も、AIが一部業務を担えるようになりました。繰り返し作業や単純作業がAIに任せられるようになると、人間の役割にも変化が生まれます。機械には任せづらい、専門性の高い分野で複雑な業務を行える人の需要が高まってくるのではないでしょうか。
Robotic Process Automationの略。Excelのデータ入力や正誤チェックなど、単純な業務を自動化できる。
スペシャリストとして特定の需要を確実に得るか、ジェネラリストとして絶滅しないような柔軟な生き方を選ぶかは自分次第です。自分自身のタイプや、今持っているスキルを一度鑑みてはどうでしょうか。