Earth Labでは、ミレニアル世代(1980年〜1999年生まれ)の働き方に関するインタビューをお届けしています。
今回のインタビューは、はましゃかさん。7月にクリエイター向けWebサービス「note」で、自身のできること・できないこと・仕事のギャラ(!)を公開し、自分らしい働き方を実践しています。
フリーランスになった経緯や仕事のこと、大学時代のこと、発信することなど前後編に分けてお伝えします。前編では、note公開に至るまでや、美大時代のことに触れています。インタビュー後編では、発信することの強さや、note公開で変わったこと、などを伺いました。
note:はましゃか
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Instagram:shakachang
コンテンツ力と発信力。総合力がある人は強い

はましゃかさんの美大受験時代の作品。写真左:デッサン、右:平面構成
-美大時代にいろんな経験をされていますが、そのときに感じたことはありますか?
美大に入って思ったのが、人前で自分の作品について話すのが苦手な人がたくさんいて。そりゃそうですよね。もともと直接的な言葉での表現が苦手で作品を通して表現するに至った人とか、言葉にはできないから作品にしたのにまた言葉にすんのか!?という状態になるのは、そうだよなと。だからこそ作品を広めたり説明するキュレーションを学ぶ専門の学科(=芸術学科)から専門の人たちが輩出されているし、そこの役割は大きいなって思います。
-価値あるものを作っているのに、発信が苦手な人が多いんですね
「発信したい」が先で、コンテンツを何にするか、という人がブロガータイプに多い気がしていて。美大の人たちはコンテンツ力がめっちゃあるのに発信があまり得意ではない、という人がわりといる。だから、発信できる人とものを作ってる人がうまく繋がるといいですよね。だから、広める力も持つコンテンツ作成者、つまり総合力がある人は、仕事を発注する人たちに見つけられやすいので、SNS経由で仕事が来るようになり、その成功体験からさらに発信し、食べていけるようになっていくと。
-自分のコンテンツを発信する自信がない人もいる気がします
コンテンツ力で言えば、私は最下層です!(笑)生産性って言葉が最近話題になってますけど、生産性は一番低かったです。今も世に出してるデザイン、フォトショップの技術の低さを同級生たちに見られてると思うとめっちゃ恥ずかしい。「お前、切り抜き下手かよ!」みたいな…(笑)でも私は生き恥を晒して生きるのがテーマなんで、どうぞ笑ってくれ、これから成長するから見ててくれって思ってます。
同族の中にいると、自分がどんなにすごいもの作ってても、それよりもすごい人が隣にいて自己肯定感が低くなってるのを感じてました。(多摩美の)グラフィックデザイン学科は、デッサンの試験があるので、めっちゃ基礎の絵が上手い人の集まりなんですよ。だから、ネットでデッサンの1枚でも公開すれば「すげー」てなるのに、「いやデッサンって使い古されたコンテンツ(笑)受験かよ」って感じなんですよ。入試問題の英作文をSNSで公開するみたいな気持ちですね。友達に、「aつけ忘れてるよ」とかケアレスミス指摘されるのが怖いみたいな。
でもそこをまるで別の界隈に飛び込んで、そのデッサン見せれば「希少な才能だ!仕事頼みたい!」てなるわけじゃないですか。その界隈から飛び出さずにいるから、自分のコンテンツ力のすごさを忘れてしまうのかなと思います。
-今の界隈から飛び出すことで、自分のコンテンツが活きてくる、と
そうです! 全員絵かける人が集まってると、「すげー」てならないので、誰かが誰かに何か頼むってことが起こらない。能力の飽和というか。そこだけで固まってると仕事が生まれないんですよ。
でも、私がモデルの世界に飛び込んで、「絵が描ける」っていうと「じゃあお願いしたいことがいっぱいある」てなったり、デザインの知識があんまりない人の所に飛び込むと、めちゃありがたがられるっていうのを、在学中になんとなく肌で感じてて。その集団の中でまだ誰もやってないことをやれば、そこで仕事が発生するんだ、と思いました。
-差がある所に行くことが大事なんですね
よく広告の授業で、「100円のペンを1000円で売る方法を考えよ」って問題があるんですけど、わたしだったら、売りたい地域のペンを全部買い占める(笑)だって、カメラマンが必要かつ不在の場所で写真撮ったら絶対食べていけるじゃないですか! わたしは写真ゼミで同級生の超上級レベルのせめぎ合いを見てて、日本の写真のトップレベルをあげる活動ももちろん必要だと思ったけれど、実際に写真を仕事にしている人はライバルがいない場所で生まれていたりするなと感じたんです。写真を専攻して学んだ経験がなくても、「撮影が必要な場所」で活動して発信して食べている。
これはあとづけな理由になりますけど、私だったら作る側が多いデザインの人たちの中で「自己顕示欲万歳!!」とモデルを進んでやったことが希少価値になり、自分に自信を持たせてくれたのかなと思ってます。

撮影:おおもりめぐ
-誰もやってないことをやるときに、ためらいはなかったですか?
「誰もやってないからやろう!」と思ったというよりは、自分の「色々やってみたい」に正直に行動したという感じです。せっかく高い学費を払って美大に来てるんだから、「その学科のことだけを専門にやらなきゃ!」と動けなくなってる人もいましたけど、美術学科も経済学科も同じ大学。進路は自由に考えていい。私も学費を払ってもらっていたので少々罪悪感も感じながら、全然違うこともどんどんやったおかげで、結局美大のスキルに支えられて自分らしい発信ができている。1回離れても結局役立つんだなって実感してます。
できないことを正直に言えば、全員にメリットになる
-“おしごと募集note”を公開した後、今までと何か変わった感覚はありましたか?
おしごと募集noteを公開した時に予想外に褒めてもらったのが、できることだけでなく、苦手なことを書いたところです。自分に合った働き方をnoteに書くことによって、得意なことと苦手なことを再認識できました。
最低ギャラも書いてあるので、値段交渉がすごい楽になったっていうのがひとつ。今まで、2万円の仕事を1週間かけてやったりしてたんですよね。向こうは2日くらいでできると思って頼まれてても、実際やってみたら1週間かかる。単純計算で月収8万になっちゃう(笑)こういうことを言い出せなくて困ってたりとかしてました。あと修正を24時間対応でやってぶっ倒れるとか。
働き方についての自分のスタンスを伝えないまま、「これができます」だけで働くと、「これのやりかた、進めかた」の部分で誤解が起こる。「すぐ連絡を返さないなんてなんてだらしない!」とか「こんな時間、こんな日に連絡なんてなんてブラックなんだ!」とか相互的に嫌なのに当たった、てなってしまう。でも「こんな時間」や「こんな日」はそれぞれの働き方で全然違う。これは何曜日何時から何時まで対応してますって先に伝えるだけで、お互いの「常識」の齟齬を事前に防げるのかなと思います。
-「できる」「できない」がはっきりするんですね
今までは、いろんな人に「仲良い私だから許せるけど、社会に出たらそれは通用しないから、直しなね」「そんなんだったら人に迷惑かけまくるから気をつけなよ」と言われてて。その罪悪感ですごい落ち込むこともありました。人間として普通にできなきゃいけないことができないから、それを直さないと仕事しちゃダメなのかもと思ってたんですね。今ももちろん短所を公言したからといって直さないとかではなく、成長したいと思ってます。
でも、あのnoteを書いたことによって、初めて会う人でも「こうなんですよね。わかります、私も深夜に仕事しちゃいます」とか言ってくれて。私が、アポを14-18時の間しかとらないように決めただけでも、遅刻してしまう確率が減って、ストレスフリーになりました。夜中に執筆が盛り上がってもそのまま書き続けられる安心感がすごいです。あとは、土日休みますって宣言してるから、楽になったし。たまに土日も働きますけど、休みの日は「来週も健康に頑張るために本気で休む」と思ってるから、積極的にダラダラしてます。
-“おしごと募集note”で働く環境を整えられた、と
ですね。私が働く理由が伝わりました。「この人はこういう目標があって、そのためにこういうことをやってて」というスタンスがまず共有できてる。共通認識ができてる状態ってなんて働きやすいんだろう、て感動してます。イラストを納品したのに、受け取ったメールの最後に「女優の仕事も見られるように応援してます」とか返されたり。もう、感動ですよ。あと、「メールの返信が苦手だ!」と大声で言ってたら、手伝ってくれるマネージャーさんが見つかったり。私が寝た数時間後に起きてメール返してくれるので、めっちゃ助かってます。これアウトソーシングって言うんですか…?
-自分でアピールすることで、短所があってもはましゃかさんの長所を仕事に発揮してほしいという人と仕事ができますね
ほんっとにそうです!ほんっとにそうです!(笑)もし週7日24時間対応を求める人がいたら、絶対私には頼まないじゃないですか。無理同士の人が引き合うことがないから、それはすごくいいなと。
-今までで一番印象に残っている仕事は何ですか?
やっぱり、芝居できることが一番嬉しいです。初めてお芝居でお金をもらった時は、「女優って名乗ってもいいんだ!」と思えて。でもやっぱ実力経験知名度ともにまだまだなんで、志望ってつけとこう、って(笑)
喋ったり動いてるところを見てもらう仕事が好きですね。なので、先日動画メディアの「ONE MEDIA」さんに出させてもらって、沢山の人に「はましゃか、動画で見る機会あんまなかったけど、めっちゃいいね」って言ってもらったのがすごく嬉しかったです。文章から知ってもらうことが多いので逆に反響があって。さっきの話じゃないですけど、私は動画の場合はコンテンツ力はあるんですけど、まだ発信力が弱いので、これから自分でやるなり仕事をいただくなりしてもっと見てもらいたいなと思ってます。あとは私はミーハーなので、仕事で憧れの人に会えた時は大体ギャーギャー言いながら親に報告してます(笑)
※はましゃかさんが出演したONE VOICE【女子力ってなんだろう?私がサラダを取り分けない理由】
-はましゃかさんはどんな女優になりたいですか
わたしが好きなのは、ユマニテって事務所に所属してるスッとした女優さんとかなんですけど、ツイッターの分析機能を見たら、私のフォロワーの興味あるカテゴリ1位が「コメディ」で(笑)そうか、私はコメディの枠にいるのか、と思って(笑)
確かに作品見てゲラゲラ笑ってもらえるような女優さんになりたいし、変な役どんどんやりたい。今は、文章読んでもらって、めっちゃ笑ったとか言ってもらうことが多くて心臓がギューってなるほど嬉しいし、前回出演した舞台でも、お客さんが笑ってくれてる瞬間が一番嬉しかった。
しおたんさん(塩谷舞さん)には、「マルチタレントだね」って言ってもらってて、教育番組の陽気なお姉さんとかもしたいし、密林に行って知らない民族とジェスチャーで会話したりもしたい(笑)最終的には、大河ドラマのOPに名前が載るのが人生の夢です。まずは自分の働き方にあった事務所さんとか見つかるとはやいのかな…芸能関係の方、このインタビュー見てくれないかな(笑)
女優として仕事をもらえるようになっても、文章とかデザインもきっと続けるんだろうし、「点と点が繋がって線になった!これのためにやってたんだ!」って瞬間が来るだろうなと思うと楽しみです。
常に「何をやっていきたいか」を言い続けること
-フリーランスを決意してからを振り返ってどうですか?
選択肢があってフリーランスを決意したっていうよりも、消去法でそうなったというか。4年の夏の時点でもフリーランスでやってける自信なんて全然なくて、普通に焦って就活しなきゃと思ってスーツ着ましたよ! でもエントリーシートさえ期日に出せないし、ポートフォリオも間に合わなくて。あ、この関門を通れた人だけが組織で力を発揮できるんだ、って思いました。ライターの仕事をしたり舞台に出てたら卒業の時期になって、卒制と仕事で就活する暇がなくなったのでそのままズルズルと卒業して、バイトをちょっと挟み、今に至ります。なんか、就活専門のアシスタントサービスとかあったら就職できてたかもしれませんね…このサービス、結構需要ありそうだな(笑)
どうして複数の仕事をいっぺんにやろうと思ったんですか、ともよく聞かれるんですけど、「複数の仕事いっぺんにやるぞ!」と思って始めたわけじゃなくて、目標のためにできること・自分が得意で、かつ人を楽しませられることことをどんどんやってったらそうなっただけ、というか。全然、いまも毎日パニックです(笑)今、1ヶ月でも状況がどんどん変わっていきます。7月末までnote更新してなかったし! そう思うと、8月に入ってからの1ヶ月はすごかったですね。自分の波紋が返ってきた感じがして、有り難かったです。
-女優になるための、フリーランスなんですね
やりたいことは、口に出して言った方がいいですよね。できることばっかり見せてたら、その仕事ばかりになるのは当たり前の流れだと思うので。常に「今はこれができるけど、これから何がやっていきたいか」みたいなことは言い続けた方がいいのかなと。例えば、就職した人も、何かのために会社に入った可能性もあるじゃないですか。「とりあえずお金貯める為に」「独立の夢があって」とか。就職した仕事自体が夢なら最高なんですけど、もし別の目標もあってなおかつ仕事に集中してると、目標を忘れちゃうことある。私もよく忘れそうになって、「いかんいかん、私芝居したいんだった」って(笑)
フリーランスの仕事が楽しすぎて、生計立てられるんだったらそれ以外寝て過ごしそうになるんです。基本、何もしなくてもいいんだったら何もしない方の人間なんで。だけど、手段の目的化になっちゃわないように、ブログとか書き続けたり、芝居の仕事のきっかけになるようなものを発信して、自分が何に向かって歩いているか忘れないようにしながら、自分のこと食べさせながら誰かを笑顔にする仕事で生きていけたらいいなと思っています。
2018年の8月で、フリーランスの活動基盤が整ってきたと語るはましゃかさん。9月からは、芸能活動の幅をより一層広げていきたいとおっしゃっていました。今後も、フリーランスとしてのみならず女優として羽ばたいていくはましゃかさんから目が離せません!
撮影:なかむらしんたろう
衣装協力:オモコロ