学校の授業で、英会話スクールで、あるいは海外留学で、英語を勉強したのに、話す機会がまったくない! そんな人は多いのではないでしょうか。せっかく学んでも、使わなければ宝の持ち腐れ。とはいえ日本ではまだまだ、日常的に英語を使う場面にはなかなか出くわさないでしょう。
「英語力を伸ばす」こととおなじくらい大切なのは、「英語力を維持する」ことです。
そうはいっても、いまさら英語の勉強に割く時間なんてとれない……。そんな人におすすめなのがポッドキャスト(Podcast)というサービスです。ポッドキャストは無料で聴くことのできる音声コンテンツで、言語学習のツールとしても非常にポピュラーです。ポッドキャストをうまく活用することで、通勤電車などの「スキマ時間」を、効率よく学習に充てることができます。
英会話のコンテンツを提供するポッドキャストの番組はたくさんあって、一目見ただけではどれを聴けばいいのか迷ってしまいます。そんなあまたある英会話番組のなかから今回、自信をもっておすすめしたいのが、「バイリンガルニュース」という番組です。本記事では「バイリンガルニュース」の魅力を紹介します。
目次
バイリンガルニュースとは
バイリンガルニュースとは、 iTunes Store で無料配信されているPodcast のコンテンツです。毎週木曜日に更新されています。
日頃から Podcast を利用しているユーザーにとっては、バイリンガルニュースはすでにおなじみの番組と言えるかもしれません。2013年の5月に配信を開始してからたったの2ヶ月で iTunes Store の Podcast 総合ランキングで1位を獲得、以降ずっとトップクラスのダウンロード数をキープし続けている大人気のPodcastだからです。
Podcast のカテゴリーにおいては言語コースに分類されていることから、基本的には言語学習のための番組といえます。しかしバイリンガルニュースは同時に、他の英会話 Podcastとは一線を画するユニークな特徴をたくさん持っている番組です。楽しみながら英語力を維持し、さらに強化するのにうってつけのコンテンツです。
バイリンガルニュースのなにが面白く、何がユニークで、なぜそんなに人気なのでしょうか? ここでは番組の魅力を、大きく4つの視点から紹介します。
バイリンガルニュースの魅力①:バイリンガル会話形式
バイリンガルニュースではその名の通り、日本語と英語のバイリンガル会話形式でニュースを紹介しています。このバイリンガル会話形式というのがミソなのです。日本語担当のマミが日本語で、英語担当のマイケルが英語で、それぞれ会話を進めていくという、 特殊な形式をとっています。
実際どのような流れで番組が進行していくのか、具体的に説明します。
①マミとマイケルが、事前にそれぞれ集めたニュースが紹介されます。
②最初にマミが日本語でニュースを読み上げ、その後でマイケルが、全く同じ内容を英語で読み上げます(番組の後半ではこの順番が交替して、マイケルが最初に英語で、その後にマミが日本語でニュースを読み上げます)。
③ニュースを一つ紹介するごとに、それぞれのトピックについて、マミとマイケルがディスカッションを行います。この時もマミは基本的には日本語で、マイケルは英語で議論しますが、時折マミも英語で話し始めたり、逆にマイケルが日本語で話し始めたり……。
このように、 番組全体を通して、日本語と英語が常に飛び交っているような会話が繰り広げられます。これは日常ではなかなか経験することのないシチュエーションですが、 Podcast として聞いていると、新たな発見がたくさんあります。
ニュースの紹介部分以外、基本的に英語が和訳されることはありません。マイケルはひたすら英語で話し続けるので、慣れないうちはなかなか聞き取るのが難しいかもしれません。しかしここで活きてくるのが「バイリンガル会話形式」です。マイケルの英語での発言を受けて、それに対するレスポンスを、マミは日本語で返します。こうして日本語と英語が交互に折り重なるようにして会話が進むことで、英語の部分が完全に聞き取れなくても、前後の文脈からその内容を理解することができるのです。
このようにして、英語を英語としてそのまま理解する練習ができるのが、バイリンガルニュースの「バイリンガル会話形式」による第一の魅力と言えるでしょう。
バイリンガルニュースの魅力②:MamiとMichaelのキャラクター
ラジオ番組や Podcast の面白さの大部分は、パーソナリティー自身の魅力に左右されます。バイリンガルニュースも例に漏れず、パーソナリティを務めるマミとマイケルの人となりが非常に魅力的で、二人の繰り広げる会話がとにかく面白い。
マミはバイリンガルの日本人ですが、東京生まれ東京育ちで、帰国子女ではありません。 番組での発言によれば、思春期の頃から海外ドラマや洋楽が大好きで、当時流行っていたブリトニー・スピアーズやエミネムの曲の歌詞を見ながら、完璧に歌えるまで何度も何度も練習していたとのこと。 そうした努力(?)が実ってか、留学経験もないまま、英語がペラペラになったそうです。
一方のマイケルは、アメリカ人の父親と日本人の母親を持つ、いわゆる「ハーフ」です。彼もまた日本で育ちですが、インターナショナルスクールに通っていたそうです。
おなじバイリンガルだけれど、それぞれバックグラウンドの違う2人。そのバックグラウンドの違いは意見の違いとなって如実に表れています。彼らが意見をぶつけ合うことで、会話はとてもエキサイティングなものになるのです。
バイリンガルニュースの魅力③:独特な視点に立ったニュースのチョイス
そしてもう一つ、バイリンガルニュースのコンテンツとしての魅力を支えている大きな特徴があります。それは、毎回紹介されるニュースのトピックが非常に独特であることです。
たとえばある回では、以下のようなニュースが紹介されていました。
経済産業研究所のディスカッションペーパーとして公表された研究で、神戸大学と同志社大学が、なにが人の幸福度 を左右しているのか、2万人を対象に調査を行いました。所得、学歴、健康、人間関係、自己決定を軸に分析した結果、所 得や学歴よりも自己決定が強く影響していることがわかりました。 自己決定は、中学以降の進学先、進学の 有無、就職先について、自分の希望で決めたのか、希望ではなかったのに周囲のすすめで決めたのかを尋ねました。また 所得が増えると幸福度も増加していまし たが、所得の増加率ほどには幸福感は増えず、変化率の比は1100万円で最大となっていました。
このニュースに対して2人は、バイリンガル会話形式で感想を以下のように述べました。
(マミ)そう。ここでの幸福度っていうのは前向き志向と不安感が少ないっていうことで測ってたみたいなんだけど、進学とか就職を自分の意思で決めた人は不安感の程度が低いっていうことらしい。だから要はそこまで年収が高くなくても自分がやりたくて決めたことだったらそこまで不安度がなくて、前向きに考えられてるっていう。
(マイケル)A lot of those people may have been able to do what they wanted to do because what they wanted to do was found to be agreeable by their parents, you know. Maybe, I don’t know, you think it diminishes your happiness if you do what you want to do, but you were told by somebody else first to do it and so you’re not sure. Like you know how you can be uncertain of whether something was your own original plan or not.
どうでしょう、マイケルの話している英語、わかるでしょうか? 文章にすると読むのに時間がかかりますが、上に引用した部分は、実際の音声ではほんの数十秒です。音声として聴くことで、インプットの効率も上がります。
また、民放のテレビ番組ではまず取り扱わないようなきわどい話題に切り込んでいくのも、バイリンガルニュースの特徴です。たとえば以下のようなセクシュアルな話題。
アダルトフィルム制作会社のNaughty Americaが、ディープフェイク技術を使用して、顧客の顔を俳優や女優 の顔に合成したり、背景を変更して新し い設定にしたり、俳優の顔をブレンドす るなど、リクエストに応じてカスタム動 画を提供するサービスを開始しました。 料金は、内容の変更度合いによって数百ドルから数千ドルで、依頼する顧客は自分の写真や動画などを提出します。 Naughty Americaは、サービス提供にあ たり、オリジナル作品に出演している俳優や女優から必ず合意を得てから動画の編 集をすると述べているほか、顧客は自分 の身分証を提示し、本人であることを証 明する必要があります。
さらに、宇宙に関するニュースのように、アカデミックな話題が多く出てくるのも特徴。
ベルギーの理論物理学研究所とマドリード自治大学の研究チームが、二つ の回転するワームホールが衝突した場合、 それによって発生する重力波は、ブラッ クホールとは異なるエコーを生み出すだ ろうという分析結果を発表しました。現 在、ワームホールが実際に存在するのか どうかはわかっていませんが、重力波検 出器LIGOが近くアップグレードされれば、2つのワームホールが合体する様子を記 録することが可能になるかもしれないと、チームは述べています。 ワームホールの存在は、アインシュタイン によって予測されており、相対性理論に 基づくものです。ワームホールがあれば、 光よりも速く時空を超えることが可能に なるかもしれません。
インターネット、テクノロジー、セレブリティ、ミレニアル、セックス、そして宇宙……。バイリンガルニュースは、取り上げられるニュース自体が面白いので、純粋にコンテンツとしても楽しむことができるのです。
バイリンガルニュースの魅力④:ノースポンサー
ニュースを紹介し、それについてのオピニオンを発信するコンテンツはたくさんありますよね。しかし、その中でバイリンガルニュースが目立ってユニークなのは、スポンサーをつけていないという点です。
テレビや新聞などのマスメディアをはじめとして、大きな企業が運営するメディアの背後には、必ずと言っていいほどスポンサー企業がついています。 こうしたメディアは企業からの広告収入を元手に運営されているため、スポンサーである企業に不利益をもたらすと考えられるニュースは報道されず、事実を曲げて伝えられてしまうようなことがしばしば起こります。言い方を変えれば、スポンサーがつくことによって、発言の自由がある程度制約されてしまう恐れがあるということです。その結果、いつのまにかメディアが企業に私物化されていた……なんてこともよくあります。
こうしたリスクを避けるため、バイリンガルニュースを運営するマミとマイケルは、「ノースポンサー」を方針として掲げています。自分たちの発言の自由を守るために、広告収入によるマネタイズという一般的なスタイルから距離を置き、自腹での運営を続けているのです。
独特のゆるい雰囲気や、ニュースのセレクション、またそれぞれのトピックに対する踏み込んだ意見など、バイリンガルニュースという番組を刺激的にしている様々な要素は、この「スポンサーをつけない」という方針によって成り立っているといえます。
いかがだったでしょうか。「バイリンガルニュース」という番組の魅力がすこしでも伝わっていれば幸いに思います。いままさに英語を学習している人はもちろん、「英語、勉強したのにぜんぜん使わないからどんどん忘れていってる……」という人にも、バイリンガルニュースはおすすめです。マミとマイケルが話すバイリンガル形式の会話を聞いているだけで、自分もその会話に加わっているような気分にさせてくれるからです。せっかく身につけた英語、生かすも殺すも自分しだい。Podcastは無料で聴くことができますから、ぜひこの機会に、ダウンロードしてみてくださいね。