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2018.06.01

【プログラミング教育】必修化の目的と課題 -海外事例からみる日本の未来-

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BY くぼす

プログラミング教育が2020年から小学校で必修化されます。日本のプログラミング教育と海外のプログラミング教育の事例から、プログラミング教育の学習内容や本質を探ります。また、必修化に向けての課題についても考察します。
21世紀の子供たちが、未来のために何を学んでいかなければならないかを理解していきましょう。

プログラミング必修化の目的

プログラミング教育

プログラミングを学ぶ子供

なぜプログラミング教育が小学校教育に導入されるのか。それはプログラミング的思考を学ぶためです。2016年6月に発表された内閣府資料「日本再興戦略2016―第4次産業革命に向けて―」では、日本の若者が「第4次産業革命を生き抜き、主導するため」に、情報活用能力を高めていく必要があると書かれています。

つまり、JavaやC言語などのプログラミング言語そのものを学ぶことが目的ではありません。プログラミング教育を通して、プログラミング的思考を身につけることが目的なのです。

プログラミング教育は2020年度からはじまる

内閣府資料「日本再興戦略2016―第4次産業革命に向けて―」では、以下のようにプログラミング教育を充実させるために学習指導要領の改定が検討されています。

プログラミング教育については「小学校における体験的に学習する機会の確保」「中学校におけるコンテンツに関するプログラミング学習」「高等学校における情報科の共通必履修科目化」といった、発達の段階に即した必修化を図る。
出典:日本再興戦略2016―第4次産業革命に向けて―

その後、2017年3月発表の学習指導要領「生きる力」の小学校指導要領(文部科学省)で、2020年度から初等教育でプログラミング教育が必修化することが明示されました。また、中学校では2021年度から、高校では2022年度から適用される学習指導要領の改訂が予定されています。

必修化の目的「プログラミング的思考」とは?

プログラミング的思考は、物事を論理的に考える能力、つまり論理的思考能力を指します。論理的思考とは、物事や出来事、行動に対する周囲への影響などを、順序立てて分析したり考えたりできる能力です。

例えば、「ロボットだけが働くレストランを経営する」という目的をあなたが持っているとします。目的を達成するために必要なことは何でしょうか? まずロボットを発注しますか? それはNGということに気付きますね。何を提供するレストランか、場所や敷地面積などが決まらなければ、ロボットのカスタマイズもできなければ数も決まりません。

目的を達成するために何が必要で、何をどのような順番で実行すればよいかを考えられることがプログラミング的思考と言われています。

プログラミング的思考や論理的思考は、AIやロボットが活躍する将来の情報化社会を生き抜くための鍵になってきます。大量の計算をする時、手計算でやる人はいないと思います。すでにコンピューターの仕事になっています。コンピューターに計算をさせる上で、正しい順序で命令をしないと誤った答えが返ってくることがあります。これが自動運転車のプログラムであれば、大惨事を招きかねません。

つまり、「コンピューターに分かりやすく命令できるようになること」こそが、プログラミング教育の目的と言えます。

実際どんな教育になるの?

新たに「プログラミング」という科目が追加されるわけではありません。算数や図画工作など、既存の科目にプログラミングのエッセンスを取り入れた授業が始まります。
長野市立芹田小学校4年生を対象にした授業「めざせ!行列のできるおすし屋さん!」という図画工作の授業をみてみましょう。授業で使用するものは、児童が粘土で作成した「おすしネタ」と、プロロボと呼ばれる「センサーカー」。

おすしネタとプロロボを利用して、回転寿司のようにセンサーカーを動かすプログラムを作成していきます。児童は、目的の動きをさせるためにどのようにセンサーカーを動かすとよいか考えることでプログラミング的思考とIT技術を身につけるのです。

プログラミングをはじめとするIT分野に「難しそうだから」と、苦手意識を持ってしまう人が少なくありません。長野市立の小学校の授業は、図画工作の教育として粘土と触れ合う延長に、プログラミングの教育としてセンサーカーと触れ合う時間を設けています。このような授業が子供たちのプログラミングへの壁を少しずつ壊していくでしょう。

小学校でプログラミング教育を必修にしている3つの国

世界では、すでにプログラミング教育を取り入れている国があります。まずは、小学校の教育でプログラミング教育を導入している3ヶ国、イギリス・ロシア・ハンガリーの事例をみていきましょう。

以下の内容は、文部科学省委託事業によって作成された資料を参考にしています
参考資料:諸外国におけるプログラミング教育に関する調査研究

【イギリス】IT教育は1990年から始まっていた


イギリスは、1990年からIT分野を教育カリキュラムに含めています。その後、2013年のナショナルカリキュラムの改定で教科名が「Computing」に変更され、アルゴリズムの理解やプログラミング言語の学習を行うようになりました。

アルゴリズムとは、ある特定の問題を解く手順を、単純な計算や操作の組み合わせとして明確に定義したもの
出典:IT用語辞典|アルゴリズム

日本の小学校教育の目指す「プログラミング的思考」に通じる学習ですね。小学校のプログラミング教育では教科書を使用することはあまりないようです。とにかくコンピューターに触ることを重要視し、簡単なプログラムの作成やデバック(プログラムの不具合を発見・修正すること)を行います。実践的な経験を積みながらアルゴリズムやプログラミング言語を学習していきます。

イギリスがComputing科目のカリキュラムを導入した目的は、「デジタルワールドへの積極的な参加ができるレベルのデジタルリテラシーを獲得できるようにする」ためだと、ナショナルカリキュラムに記載されています。

日本が「情報活用力を高める必要がある」と述べているのと同じように、デジタルリテラシー(=情報活用力)を重要視していることが伺えます。

【ロシア】小中高でプログラミング教育を必修化している世界で唯一の国


IT分野の授業を、小学校・中学校・高等学校のすべてで必修としている国は、世界で唯一ロシアだけです(2018年3月現在)。ロシア連邦の定めるナショナルカリキュラムに従い、各州で2009年から初等教育(日本でいう小学校にあたる年齢)にプログラミングの授業が導入されました。ロシアもイギリスと同様に、生徒たちがアルゴリズムを組み立てられるような学習スタイルを採用しています。例えば、図形を描いたり、データの集計・分析をしたりしています。

IT分野の学習は「自然科学、社会学、経済学、文学などの分野の世界の多くのプロセスを理解する鍵を提供する」という考えを基盤として、ロシア全土にプログラミング教育が導入されました。

【ハンガリー】1年生から12年生まで徹底したプログラミング教育


ヨーロッパの真ん中に位置するハンガリーでは、2003年から、ITを通じた教育が行われるようになりました。ハンガリーのITを通じた教育の中身は、イギリスやロシアと同様にアルゴリズムやプログラミングを主とした教育です。

ハンガリーでは、初等教育の8年間(日本の小学生・中学生に当たる年齢)と中等教育4年間(日本の高校生に当たる年齢)の、計12年間でカリキュラムが組まれています。1〜10年生までは必修科目として、11・12年生では選択科目として、生徒はプログラミング教育を受けます。IT分野教育の導入当初は、小学1〜4年生を対象に、週に1時間のネット検索やお絵かきの授業を実践していたようです。現在は、4年生までに簡単なアルゴリズムを習得し、5年生から簡単なプログラムの実装を行う学習を行なっています。

ハンガリーでは「ITのテーマは、教育上の目的の中においても、主要能力」であると捉えられています。生徒たちの目標は、アルゴリズムやプログラミングを学び、問題解決のツール・テクニックとしてのITを使う力を身につけること。やはり、プログラミング言語そのものではなく、プログラミングに基づいた思考を育てていくことに注目していることがわかります。

プログラミング教育が盛んな3つの国

プログラミング教育が必修ではないものの、科目として選択できる国も増えています。プログラミング教育を取り入れている中でも、テクノロジーの発展が注目されているエストニア・アメリカ・シンガポールに注目します。

以下の内容は、文部科学省委託事業によって作成された資料を参考にしています。

参考資料:諸外国におけるプログラミング教育に関する調査研究

【エストニア】注目度上昇中のテクノロジー先進国


エストニアのプログラミング教育推進プログラムは、2012年からはじまっています。1~12年生でプログラミングの授業を選択できるようになりました。小学校の3年間、中学校の6年間、高等学校での3年間で学習を行いますが、必修ではありません。生徒たちはプログラミングの学習を通して、批判的思考・問題解決能力・創造力・協調性を養うことを目的としています。

エストニアがプログラミング教育を開始した理由に、現地企業のプログラマー不足があります。エストニアは、国をあげてIT政策に力を入れていることで有名です。学校の屋根の修繕よりもPC設備の導入を優先したというエピソードも。今後も、エストニア発のテクノロジーの動きは注目していきたいですね。

【アメリカ・カリフォルニア州】IT流行の発信地シリコンバレーの地


アメリカのカリフォルニア州のプログラミング教育は、各学校に実施と指導内容が委ねられています。カリフォルニアには、IT業界の中心地ともいえるシリコンバレーがあります。ところが、最先端のテクノロジー企業がひしめき合っているにも関わらず、IT人材の供給が乏しいことが懸念されています。この実情を変えるべく、2014年にはカリフォルニア州議会で、コンピュータサイエンスの義務教育化も検討されました。実施に関する情報はまだ発表されていませんが、IT科目が義務教育に加わる可能性は大いにあるでしょう。

【シンガポール】アジアでひときわ急成長をみせる国


シンガポールは、IT分野に早くから注目しており、90年代にはIT分野の教育を導入していたという記録もあるようです。その後、2014年にソフトウェアプログラミング教育を、公立中学校に導入すると報じられました。シンガポールの成長は目をみはるものがあります。名目GDPは、この20年で約2.6倍上昇。さらに国際競争力を高めるために、このソフトウェアプログラミング教育に踏み切った理由のひとつとされています。21世紀に活躍できる人財の能力として、情報スキルは欠かせないと捉えられています。

日本のプログラミング教育の課題

世界中の国々でプログラミング教育はすでに導入されており、若いうちからIT技術や思考方法の習得をすべきであることが分かりました。しかし日本では、2020年の導入に向けてすでに問題が浮き彫りになっています。一つはプログラミング教育の時間を確保できるか、もう一つは指導者をどう確保・育成するかという問題です。

小学生のお子様を持つ保護者の方々は、当事者として課題をしっかりと把握し、2020年に備えましょう。

英語も科目化され、時間をしっかり確保できない

今までは、小学校5・6年生のみ「外国語活動」として英語教育を受けていました。2020年度からは、今までの外国語活動を3・4年生からスタートし、5・6年生は英語が一つの科目となります。

「ゆとり教育」の時代では、理科の実験時間が削られました。その結果、考察する時間が削られて思考力の低下に繋がったのではないか、と言われています。プログラミングは科目ではなく、算数や図画工作の授業の一部として取り入れられます。しかし、すでに算数も図画工作も教育法で定められたコマ数を満たすようカリキュラムが組まれています。プログラミング的思考を身につけるためには、じっくりと考える時間が必要不可欠です。プログラミングの時間を確保するために、教科書の一部をなおざりにする必要があるのか疑問です。

ゆとり教育で育ち、すでにITエンジニアとして働いている身としては、英語教育を優先的にしっかりやってほしいと思っています。私は普段の仕事で英語の必要性をひしひしと感じています。海外からの問い合わせや海外のヘルプデスクとの会話で困難を感じることが多いです。英語を小さい時からちゃんと勉強しておけばよかった、と後悔しています。

指導者の確保

今クラス担任として教育指導を行なっている先生たちのうち、どれぐらいの先生がプログラミングをやったことがあり、プログラミング的思考を鍛えたことがあるでしょうか。

担任の先生がプログラミングの授業を受け持つのか、それともプログラミング教育専門の指導者に任せるのか分かりません。しかし、いずれにせよ全国すべての小学校に適切な指導者を配置できるとは到底思えません。

理由は、そもそもIT人材が不足しているから。平成28年に経済産業省が公開した「IT人材の最新動向と将来推計に関する調査結果」によると、2015年時点で約17万人のIT人材が不足しており、2030年には約59万人まで拡大するだろうと言われています。この状況のなかでIT技術に長けた指導者を新たに確保することは困難です。担任の先生が新たにプログラミング教育を学ぶにしても、英語教育の準備も新たに行わなければなりません。小学校教育の現場の負担を考慮したカリキュラムを文部科学省には提示してもらいたいです。

制度としてのプログラミング教育にはまだまだ課題があります。これを受けて、子供向けプログラミング講座やプログラミングの指導者育成講座を提供する民間企業が現れはじめました。有料の講座が圧倒的に多いのは当然ですが、民間の講座にお子様を参加させて、学校のプログラミング教育に向けて対策を取っておくのも一つの手だと思います。

イギリスの先行事例から推測する日本の将来

イギリスは1990年からプログラミング教育をスタートしています。日本と同じような課題はなかったのでしょうか。

時間の確保は学校に委ねられている

イギリスのカリキュラムでは、日本の学習指導要領にある「2年生の算数は175コマ行わなければならない」といった決まりはありません。科目ごとの優先順位が決まっている程度で、コマ数は学校に委ねられています。

そのため、イギリスではプログラミング教育を週2時間行う学校もあれば、週30分程度の学校もあります。学校側が自由に各科目のコマ数(時間)を調整できるので、プログラミング教育のために何を削るかと考える必要が全くないのです。

日本の文部科学省に求められているのは、学校教育現場を第一に考えた法整備を早急に行うことと言えます。

国と民間企業によるクラス担任支援

イギリスの小学校では、クラス担任がプログラミング教育を行なっています。

今の日本と同様、クラス担任がどうやって指導を行うのか、プログラミングの技術を身につけるのかが継続的な課題になっているとのこと。ですが何も対策されていない訳ではありません。2014年にイギリス政府は「ソフトウェアコーディングに関する教員トレーニングに 50 万ポン ドを投じる」と発表しました。

また、プログラミング教育の指導を学ぶための専門機関が複数設立されています。このような専門機関は、国だけでなくMicrosoftやGoogleなどの一般企業も出資し、講座を提供しています。国と民間企業がIT産業の将来のために協力していることが伺えます。

日本でも、国家予算でプログラミング教育の指導者を養成するとともに、SoftbankやYahoo!などの大企業が支援することが求められているのではないでしょうか。

まとめ

日本のプログラミング教育の目的は、プログラミング的思考=論理的思考を身につけること。そして、イギリスをはじめとする各国がプログラミング教育を身につける目的も同じく、アルゴリズム=論理的思考を身につけること。呼び方は違えど、これからの情報化社会で、論理的思考を持っていることは当たり前になってくるのではないでしょうか。

日本のIT人材不足は深刻化しています。このままでは日本の国際競争力は低下していくばかりです。人材不足を補うためにも、小学校でのプログラミング教育をきっかけにIT技術に興味を持つ人が増えることが切に望まれています。

最終更新日
2018.08.15

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