あなたの働く理由はなんですか? 高度経済成長期やバブル期など一昔前の日本では、マイホームや車を買うことがステータス。働く理由に疑問を感じる人は少なかったでしょう。しかし現在はモノや情報が溢れ、価値観が多様化しています。選択肢が増えた社会で働く理由に悩む人が増えているのではないでしょうか。今回は働く理由の探し方をご紹介。なりたい姿と自分の価値観を知ることが重要です。
目次
みんなの働く理由は?
価値観が多様化している中、現在働いている人は何を理由に働いているのでしょうか。まずはエン・ジャパン株式会社が公表した『現在就業中の方に聞いた、今の仕事を選んだ理由』という調査を確認してみましょう。回答者は20代〜40代のエン転職ユーザです。
同調査では「現在の仕事を決めた理由を教えてください」「次の仕事を選ぶ際に重視することを教えてください」「あなたが働く理由を教えてください」という3つの設問が用意されていました。20代・30代はやりたいことを基準に今の仕事を決めている人が多いようです。また、20代・30代が次の仕事を選ぶ際には、給料や労働条件を重視するようです。
そして、働く理由については以下のようなデータが出ています。
【あなたが働く理由を教えてくださいという質問(複数回答可への回答)】
・収入を得て家族を支えるため:53%
・収入を得て自立するため:45%
・自分自身の成長のため:44%
・人生経験を積むため:23%
・知識・スキルを得るため:23%
・社会の役に立ちたい:23%
・仕事にやりがいを感じるから:23%
・社会人としての責任:22%
・自分の力を試したい:16%
・社会とつながっていたい:15%
・夢を叶えるため:14%
・その他:6%
※統計結果の総計を引用
出典:『現在就業中の方に聞いた、今の仕事を選んだ理由』|エン転職
収入に関する項目が働く理由のTOP2を占めています。20代は自立するため、30代以上は家族を支えるために収入に重きを置いているようです。収入が重要と答えた理由は以下のとおりです。
【20代】
- 奨学金の返済
- 生活費と趣味のお金を稼ぐため
【30代以上】
- 家族が幸せに暮らせるように
- 家族との楽しい人生を歩むため
20代では他にも「自分の成長のため」や「知識・経験を得るため」という理由も上がっています。収入に重きを置きながらも、自己成長をしたいと思っている人もいます。
働く理由が「生活のためだけ」だとやりがいを感じなくなる
エン・ジャパンの統計を参考に、収入のために働いている人が多いことをお伝えしました。働くのは大人にとっての義務とも言えるでしょう。20代の若手社会人であれば、生活費や奨学金などを稼いで自立しなければならないでしょう。年代にかかわらず、結婚をしたり子供がいたりしたら家族を養うためにも働かなければなりません。
しかし、義務感だけで働いている人は要注意。収入の他にも何か働く理由を見つけていないと、やりがいを感じられずに、日々の仕事を辛く感じてしまいます。組織行動学を研究しているエイミーレズネフスキー教授は、仕事を以下の3つに分類しています。
・労働:喜びや満足感を得るよりも、生活費を得るための仕事
・キャリア:キャリアアップのための仕事
・天職:社会的に役立つ仕事に喜びを感じ、人生の一部になっている仕事
出典:Jobs, Careers, and Callings: People’s Relations to Their Work|Journal of Research in Personality
やりがいを感じ、自分が成長できるような仕事はキャリアや天職につながるでしょう。仕事のやりがいについてや労働とキャリアや天職との違いは、以下の記事で解説しています。ぜひご覧ください。
お金+αの働く理由が必要
義務感で働いていたら、自分の成長は望めないでしょう。成長できないままでは仕事を失うリスクが高まります。より良く生きるため、よりよく働くためにはお金の他に、何か働く理由を見出さなければなりません。
現在は国内市場が飽和して、日本の経済は低成長。グローバル化で人材の流動性が高まり、AI技術の革新で多くの仕事が機械に代替されるかもしれません。年生序列や終身雇用など、日本の特徴的な雇用慣行も崩壊が進んでいます。このような状況で、企業は多くの人を雇えなくなるかもしれないと言われています。少数精鋭の優秀な人材を雇用。ITを活用して業務効率化したり、アウトソーシングを活用したりするでしょう。
仕事を失わないために、仕事の質をより高める必要があります。クオリティを上げるために試行錯誤を繰り返したり、独自の工夫を見つけ出したりしているうちに大きく成長できるでしょう。「成長したい」「夢を叶えるために経験をしたい」「褒められたい」など、どんな理由でもいいです。お金以外にも働く理由を持ちましょう。
世間体が足かせになっているかも
お金+αの働く理由が必要だと述べました。しかし、それでも「お金を稼ぐ」以外に働く理由が見つからないと悩んでいる人もいるでしょう。そんな人はもしかしたら「世間体」が足かせになっているのかも知れません。
「大人だから会社に務めて働かなくては」「せっかくいい仕事に就いたから働き続けなければ」など周りの目を気にして、嫌な仕事を我慢したり、やりたいことを諦めていませんか? Earth Labで脱サラ芸人のプーケットマーケットさんに取材した際に、元公務員のひだかさんが以下のように語ってくれました。
踏み切れない人は、いろんな理由をつけていると思うんです。給料だったり、職場の人間関係や環境だったり。でも本当の理由は、9割は「世間体」なのではないかな。世間体を気にして動けない、ということに気付いたら勝ちだと思います。(中略)「周りの人って、自分がどうなったって1月も経てば気にしてないよな」と思えたら、やりたいことに進めるのでないかと思います。
出典:脱サラお笑いコンビ、プーケットマーケット:自分らしく生きること(2/2)|Earth Lab
ひだかさんは、仕事を辞める不安よりも、「辞めたということがどう見られるかを考えている」と語っています。働く理由について悩んでいる人は、一度「世間体」という色眼鏡を外してみましょう。そうすれば、自分の心に正直に向き合って、働く理由を見つけられるのではないでしょうか。
働く理由を考えるために、キャリア理論を知ろう
キャリア形成の理論を知っておけば、働く理由を考える手助けになるでしょう。ドナルド・E・スーパー氏の理論を紹介します。
スーパー氏はアメリカのキャリア研究者です。コロンビア大学で教授を務め、1953年に米国心理学会で自身初のキャリア理論を発表。キャリアに関する包括的な理論を打ち立てています。50年以上前に打ち出された理論なので、古典とも言っても過言ではありません。しかし、キャリアを最も包括的に表していて、時代の変化や国の違いに関わらず通用する普遍的な理論でもあります。
個人は人生で、どのようなキャリアの段階を踏んでいくのか=「ライフステージ」
ある時点において、キャリアが果たす役割とは何か=「ライフロール」
個人のキャリア選択に影響する内的・外的要因は何か=「14の労働価値」
出典:Life Roles, Values, and Careers: International Findings of the Work Importance Study|Jossey-Bass(1995年)
ライフステージやライフロール、14の労働価値について解説していきます。
ライフステージとライフロール
スーパー氏はキャリアを「ライフステージと」「ライフロール」という2つの視点で読み解いています。自分がどのライフステージにいて、どのようなライフロール(役割)を果たすべきかを考えることで、キャリアを形成していきます。
ライフステージ
ライフステージは、人生を5段階に分けて、それぞれの段階で特定の課題があるという考えです。その課題に取り組むことで人は成長していきます。
段階 | 時期 | 職業的発達課題 |
成長段階 | 児童期、青年前期
(0〜15歳) |
自分がどういう人間であるかということを知る。職業的世界に対する積極的な態度を養い、また働くことについての意味を深める。 |
探索段階 | 青年前期〜後期、成人前期
(16〜25歳) |
職業についての希望を作り、実践。実践を通じて、自分に最適な職業を探していく。 |
確立段階 | 成人前期〜40代中期
(26〜45歳) |
職業への方向付けを確定。その職業で経験を重ね、部下を得たり昇進したりして地位を確かにする。 |
維持段階 | 40代中期〜退職まで
(46歳〜65歳) |
達成した地位やその有利性を保持する。 |
下降段階 | 65歳以上 | 諸活動の減退、退職、セカンドライフを楽しむ。 |
(※表は一般社団法人日本職業協会の資料を基に筆者が要約)
この記事を読んでいる人は学生や新社会人の人が多いでしょう。つまり成長段階や探索段階にいる人です。成人前期(25歳まで)は自分を知り、どんなキャリアを築いていきたいかを見極める時期です。実践を通して失敗や成功を繰り返していくうちに、キャリアの方向性が定まります。
ライフロール
ライフロールでは人の役割(ロール)を定義しています。子供や親、職業人、配偶者など人は複数の役割を持って生きています。スーパー氏はそれぞれの役割の始まりや終わり、重なりを「キャリアレインボー」で図式化しています。
出典:キャリア教育とは何か-第1節 キャリア教育の必要性と意義(その4)|文部科学省「高等学校キャリア教育の手引き」
人は人生の中で、以下の複数の役割を演じながら生きているとスーパー氏は論じています。
- 子ども:親との関係における自分。
- 学生:小・中・高・大学・大学院などで学んでいる人。
- 余暇人:趣味やスポーツ、芸術など楽しんでいる人。
- 市民:社会を構成する一員としての存在。スーパー氏はボランティアなど社会に貢献できる活動をカテゴライズしている。
- 労働者:仕事を持っている人。パートやアルバイトも含まれる。
- 家庭人:家庭を持ち、配偶者や子供との関係を持っている人
- その他のさまざまな役割
家族がいる場合、労働者としての役割にのめり込みすぎると、家庭人としての役割が疎かになります。最悪の場合は家庭崩壊につながるかもしれません。学生の期間に、余暇人として趣味に没頭したら、労働者になる基盤を築けなくなるでしょう(余暇人としての活動が仕事に繋がる場合は別ですが)。
大事なのは、5歳を過ぎたあたりから、同時期に複数の役割があると知ることです。バランスを取って生活をしましょう。
14の価値観
ここまでスーパー氏のキャリア理論について簡単に紹介してきました。スーパー氏は他にも「人が重要と感じる14の価値観」を整理してます。この14の価値観は、自分が働く理由を考える際に非常に参考になります。
価値観 | 解説 |
能力の活用 | 自分のスキルや知識を発揮する |
達成 | 良い結果が生まれたとい実感できる |
美的追求 | 美しいものを発見できる。美しいものを創造できる |
愛他性 | 人の役に立てる |
自律性 | 自律できる |
創造性 | 新しいものや考えを発見できたり、デザインできたりする |
経済的報酬 | お金を稼ぎ、高水準の生活を送れる |
ライフスタイル | 自分で行動を計画し、自分の望む生き方ができる |
身体的活動 | 身体を動かす機会を持てる |
社会的評価 | 成果を認めてもらえる |
危険性 | リスクを取りながらも、わくわくするような体験をできる |
社会的交流性 | ほかの人と協力してグループで働ける |
多様性 | 活動を柔軟に変えられる |
環境 | 仕事や私生活などあらゆる活動で心地いい環境を得られる |
上記の価値観を参考に、お金以外の働く理由を考えてみましょう。あなたは人生でどんな価値観を重視しますか? 能力の活用や達成、愛他性などを重視しているのであれば、仕事そのものにやりがいを感じられるはずです。
一方、美的追求に価値を感じながらも、それを仕事にできていないという人もいるでしょう。そういう人は仕事をお金を得る手段と割り切り、余暇の時間に芸術活動をしてもいいのです。スーパー氏の理論に当てはめるとするならば、「労働者としての仕事をこなしながら、余暇人として芸術活動に勤しむ」といった感じでしょうか。
自分のライフステージや人生における役割、価値観に応じてさまざまな選択をできることを知りましょう。
仕事の意味と働く理由
社会人としての義務、生活のため、自分の価値観や成長のためなど、働く理由はさまざまだと紹介してきました。働かなくても暮らせるほどのお金があれば人は働かなくなるのでしょうか? 私はそうは思いません。生きるための仕事はしなくなるかも知れませんが、価値を生み出すための仕事は続けていくと思います。ソフトバンクの孫正義氏やAmazonのジェフ・ベゾス氏などは自分のビジョンを実現するために働き続けています。
人は社会とつながり、価値を示すことで、自分の存在意義を感じるのではないでしょうか。その手段として仕事があるのだと思います。働かなければ暇な時間を持て余し、死んだように生きることになるかもしれません。働く理由につながりやすい価値観を3つ紹介します。
自分の成長
仕事をしていると、さまざまな困難に直面すると思います。人との関係性や難しい仕事へ挑戦、結果を期待されているときに感じるプレッシャーなど。困難を適切に対処して乗り越えたときに、達成感や自分の成長を感じられるのではないでしょうか。
成長できれば自分の人生でできることも増えていきます。「やりたいことがあるけど、まだ実力がない」という人は、何よりも自分の成長を楽しむことを働く理由にしてみてはいかがでしょうか。
社会とのつながり
人は一人では生きていけません。日本人の主食お米が食卓に上がるまでを考えてみましょう。お米農家の方がお米を作り、運送業者がスーパーに送り、スーパーの人がお米を売ってくれます。多くの人が関わった結果、お米は家にたどりつきます。炊飯器を使えば、簡単に炊きたてのご飯を食べられます。お米農家のトラクターや運送業者のトラック、お米を炊くための炊飯器を作っているのはメーカーの人たちです。
お米のように、どんな仕事も多くの人が関わり、助け合いの上に成り立っています。社会の一員として自分が役割を果たせていると、人は大きな満足感を得られると言われています。「人に感謝されたい」「人の役に立つサービスを提供したい」という理由で働けば、仕事へのモチベーションが自然に高まります。自分の内側からの欲求を満たすために行動できているからです。
自己実現
どんな人でも、将来の夢やなりたい将来像、やりたいことなどを心に秘めているのではないでしょうか。「マズローの欲求段階説」という心理学用語に聞き覚えがある人は多いと思います。アメリカの心理学者であるアブラハム・ハロルド・マズロー氏が、『人間の動機づけに関する理論』(1943年)という論文で提唱した考えです。
マズロー氏は「人間は自己実現に向かって絶えず成長する」と仮定し、人間の欲求を5段階に分けました。
1 | 生理的欲求
(Physiological needs) |
生命を維持したいという欲求
(食事や睡眠、性などを求める) |
2 | 安全の欲求
(Safety needs) |
身の安全を守りたいという欲求
(住居の安全や、身分の安全などを求める) |
3 | 社会的欲求 / 所属と愛の欲求
(Social needs / Love and belonging) |
他者と関わりたい、集団に属したいという欲求
(家族や恋人、職場の同僚、趣味の仲間などとの関わりを求める) |
4 | 承認(尊重)の欲求
(Esteem) |
自己評価の欲求:自分を優れた存在と認めたい
他者からの評価を求める欲求:評判や地位、名誉を求める |
5 | 自己実現の欲求
(Self-actualization) |
能力を発揮して創造的な活動をしたいという欲求
(自分らしくありたいと望む) |
人は欲求を1から5の順番に満たしていき、自己実現に向かって成長していきます。なりたい自分をイメージし、自己実現のための努力を重ねるうちに人は大きく成長します。自分の理想を叶えるための努力に働く意味を見出してはいかがでしょうか。
働く理由を見つけるためにおすすめな本3選
最後に、働く理由を見つけるための役に立つ本を3冊紹介します。ぜひ参考にしてみて下さい。
『働く理由 99の名言に学ぶシゴト論。』
古今東西の偉人の、働くことに関する名言が集まっている書籍です。
「与えられた仕事だけをやるのは雑兵だ」
―織田信長(戦国武将)
出典:『働く理由 99の名言に学ぶシゴト論。』
「下足番を命じられたら、日本一の下足番になってみろ。そうしたら、誰も君を下足番にしておかぬ」
―小林一三(阪急・東宝グループ創業者)
出典:『働く理由 99の名言に学ぶシゴト論。』
「やりたいことがない」「何のために働いているんだろう」など仕事に関する悩みは尽きないでしょう。歴史的人物から起業家や学者まであらゆる偉人の名言がつまっているこの本を読んでみましょう。偉人の人生経験から、働く理由のヒントや勇気をもらえます。
また、『続・働く理由』(戸田 智弘 著、ディスカヴァー・トゥエンティワン、2008年)という続編も出版されています。2冊合わせて読めば、あなたの働く理由もきっと見つかるはず。
『働き方の哲学 360度の視点で仕事を考える』
「なぜ働くのか」や「どう働くのか」を図と絵で解説しています。キャリアや成長、モチベーション、能力、メンタルヘルスなど働く上で重要な仕事観を学べます。
自分らしく楽しく働いている人と働く理由が見つからない人の違いは「仕事観」の違いにあると本書は述べています。自分の中の働き方哲学を作り上げれば、きっと働く理由は見つかります。
『「自分を変える」読書: “もっと面白く生きる”知恵を身につけよう』
『働く理由 99の名言に学ぶシゴト論。』を書いた戸田氏の著書です。戸田氏はキャリアコンサルタントや日本福祉大学の教職員として活躍中。『「自分を変える」読書: “もっと面白く生きる”知恵を身につけよう』では、人生論や幸福論、仕事、思考力、恋愛など、より良く生きる知恵を身につけるために必読の50冊が紹介されています。
多くの本が出版されていますが、その内容は玉石混交。お金と時間をかけて読むなら、ためになる本を選びたいですよね。キャリアコンサルタントや教師として活躍する著者がおすすめする本は「玉の本」ばかりです。
これからの時代、仕事と人生は切っても切り離せない関係になります。そんな時代に生きる人達に是非おすすめしたい本です。働く理由に悩んでいるときは、この本を読んで自分の見識を広げてみてはいかがでしょうか。
働く理由について解説してきました。働く理由に悩んでいる人は、お金以外の理由を見つけられていない可能性が高いです。自分は人生を通してどうなりたいか、どんなキャリアを歩んでいきたいかを知りましょう。そうすれば自ずと、働く理由が見えてくるはずです。