誰かが「あの子は承認欲求が強いね」などと噂するのを耳にしたことはありませんか? もしくは自分の承認欲求の強さに悩まされている人もいるかもしれません。本記事ではそもそも承認欲求とは何なのか、いいものなのか、悪いものなのかを解説します。また、「認められたい」という強い願いのコントロール方法も紹介します。
目次
承認欲求とは
本章では、マズローの承認欲求と間違えやすい「自己顕示欲」との違いを解説します。また、承認欲求がいいものなのか悪いものなのかについての議論を実例とともに解説します。
承認欲求とは、「誰かから認められたい」と思うことです。アメリカの心理学者マズロー(1908-1970)が唱えた「欲求の5段階説」に登場する「承認欲求」の解説が有名です。彼によれば欲望はピラミッドのように層をなしており、下層の欲求が満たされるとその上の段階の欲求に目覚めるそうです。
- 生理的欲求:「食べたい、寝たい」など生命維持のための本能的欲求
- 安全欲求:「安心して暮らしたい」危険に怯える状況を逃れたいという欲求
- 社会的欲求:「仲間が欲しい」という欲求
- 承認欲求:「誰かから認められたい」という欲求
- 自己実現欲求:「これこそ自分である」と言えるような生き方をしたいという欲求
(マズローは、晩年にもう一段階上に「自己超越」という段階があることを発表しました。)
承認欲求と自己実現欲求は、精神的な欲求を指します。つまり、自宅を持っていて毎日安全に生活し、会社や学校に属して仲間と共に活動する、といった外的な欲求が満たされれば、自分の内なる欲求が出てくるのです。
承認欲求と自己顕示欲との違い
承認欲求と自己顕示欲の違いは、他者がどう思うかを意識しているかどうかです。「承認欲求」とは「認められたい」という欲求です。この場合、他者が自分を「認めているかどうか」に焦点が置かれています。「認めて欲しい」と強く欲することは「相手に私のことを〇〇だと思わせたい」、つまり相手の意思を自分の願い通りに動かそうとすることとほぼ同じです。
一方「自己顕示欲」とは「自分をアピールしたい」という欲求です。中には「他者に認めてもらいたいから」という理由もあるでしょうが、この用語自体にそこまでの意味は含まれていません。他者に認められるか認められないかはともかく、自分の何かをアピールせずにはいられない、といった欲求を指します。
ゆえに「承認欲求」と「自己顕示欲」が必ずしもセットになるわけではありません。
承認欲求はいいもの? 悪いもの?
強すぎる承認欲求は、自分だけでなく他者にも悪影響を及ぼします。ですが、適切な強さの承認欲求であれば、プラスに働くこともあります。
強すぎる承認欲求の例として、SNSの利用方法を紹介します。
タレントの西上まなみさんは、テレビ番組で自身のSNSでの偽装を告白して話題になりました。本当は一人で出かけたのに、通行人と一緒にフォトスポットで写真を撮り、まるで友人と遊びに行ったかのように見える写真をInstagramに投稿。またある写真では、一人なのに数人分のランチを頼んでみんなで楽しくランチしているように見せかけていました。しかも、食べきれない分の料理は手をつけずに残していたそうです。
適切な強さの承認欲求の例として、会社での頑張り方があります。
会社で働いていると、上司に認められたい、褒められたいと思うことがあるでしょう。上司に認められることを目標に頑張ることは、非常によいでしょう。モチベーション高く仕事に取り組めます。
承認欲求が強い人の特徴
本章では承認欲求が強い人のよくある特徴4つを紹介します。
- 自己評価が低い
- SNS好き
- 愛情に飢えている
- 浮気しがち
自分の日頃の行動や考えと照らし合わせてみましょう。また、上記のような特徴を持つ人が周囲にいたら、「あなたは承認欲求が強いよ」と教えてあげるのもよいでしょう。
自己評価が低い
自己評価の低い人は「自分なんて……」と常に呪文のように唱えています。自分がつまらない人間に見えて仕方がない。だからこそ他者からの賞賛を求めるのです。このタイプは勤勉な方に多くみられます。自分に自信をつけようと必死に努力するため、実際に賞賛を得ることもあるでしょう。
ですが、残念なことに他者からの承認で本人の自己評価が上がることは少ないのです。承認をどれだけ得たとしても、自己評価が低いために他者の評価を素直に受け取ることができないのです。
SNS好き
承認欲求が世間一般的に注目されるようになったきっかけが「SNS」です。「いいね」をもらうために、ついつい嘘を見せてしまう。誰しも賞賛は欲しいもの。承認欲求は普遍的で、しかも強烈な欲求です。SNSを始めると、それほど承認欲求の強くなかった人でも「いいね」をもらうのが快感になり、「いいね」を求めて嘘の投稿をしてしまいがちです。結果、自分本来の姿とSNS上の自分とが乖離して、精神的に疲弊してしまう人も出てきました。
SNS好きな人が全員強い承認欲求を持つとは言えません。しかしSNSには承認欲求を高めるような副作用があるのかもしれません。
愛情に飢えている
親から受ける愛情が少なかった人が承認欲求の強い傾向にあると言われます。「あなたがあなただから好き。何もしてくれなくていいんだよ」と断言してもらった経験が過去にあるかどうか。これは承認欲求の強さに大きく響いてきます。
ですが、親には十分慈しんで育ててもらったとしても「成績が下がったらうちの子ではないよ」などと言われると、子供は「自分は自分でいいんだ」と実感しづらくなります。「〇〇でないあなたはダメよ」という言葉は少なからずの人が受けたことはあると思いますが、あまりいつも聞かされると「もっと何かしなくては認めてもらえないんだ」と思い承認欲求が強まってしまいます。
浮気しがち
浮気者は「自分のことを一番と思っている勝手なヤツ」とみなされがちです。実は、特に承認欲求の強い女性こそ浮気を繰り返しがちなのです。モテる自分、可愛い自分を複数の人に「認めて欲しい」。いや、本当は自分の全てを「認めて欲しい」。でも自分を認められるのは本来自分しかいないのです。無理なことを相手に求めるから、なかなか叶わずに浮気を繰り返してしまう。浮気性の裏は、自分を承認できない自己評価の低さが潜んでいるのかもしれません。
承認欲求を満たす方法
ここでは、承認欲求をできるだけ満たしていくための方法を2つ提案します。一つは承認欲求を満たしてくれる人をパートナーにする方法、もう一つは他者の承認欲求を満たしてあげる方法です。
承認欲求を満たしてくれる人をパートナーにする
「あなたはあなたのままでいいんだよ」と言ってくれるようなパートナーを探しましょう。
認めて欲しい気持ちが強い人に、無口で人をあまり褒めない人は当然合いません。
ただし、「あなたのために言っているんだよ」が口癖の相手をパートナーにするのは要注意。相手はあなたを自分好みにさせたいだけで、あなたの承認欲求を満たしてくれることはないでしょう。
他者の承認欲求を満たしてあげる
例えば他の人に「いいね」を押せば、自分にも返ってくるかもしれません。でもそれを期待して「自分も認めてもらいたいから相手も認める」だとすれば、もしこちらが認めても相手が認め返してくれない場合、理不尽な怒りにとらわれてしまいます。
まずは「他の人も認めて欲しいのだ」と自分以外に視野を広げてみてください。自分だけが承認に飢えているのではありません。他の人もあなたからの承認を待っています。自分は承認される側ではなく、承認を与える側にもなるのだと自覚してください。その上で周囲を見直し、今まで自分が認められることに必死で、気づかなかった事柄や人を素直に認めてあげてください。きっと今まで自分を取り巻いていた世界が変わるはずです。
承認欲求はなくせるのか?
承認欲求は精神面の根源的な欲求です。坐禅を組み修行に励んだとしても完全になくすことはできません。では、なくせないまでも翻弄されないためにはどうすればいいのでしょうか。
ここでは、承認欲求はなぜなくせないのかを紹介します。また、承認欲求を弱める方法についても紹介します。
承認欲求はなくせない
承認欲求を完全になくすことはできません。他者に認められたいと願うことは社会的動物である人間の根源的な欲求だからです。特に衣食住が整っている国では、前述の通りマズローの5段階の承認欲求のうち、内的な欲求が芽生えます。
承認欲求は悪者とは限らず、上手に活用していくこともできます。目標を自分で決めた後、努力する自分に向かって周囲の人が投げてくれる言葉を励みとするのです。他者の承認を目標達成のモチベーション維持に活用できればベストです。
承認欲求は弱められる
承認欲求自体は決して悪いものではありません。しかしあまり強くても困るもの。承認欲求を弱めることはできるのでしょうか。その一案が書かれている著書『嫌われる勇気』を紹介します。
一青年と哲人が対話しつつアドラー心理学を解説するという内容です。心理学者アルフレッド・アドラー(1870〜1937)は「人生における悩みの全ては人間関係から生ずる」として、人が幸せに生きるための方法を考えた学者です。
アドラーによれば、人は自分に都合のいいものだけを承認します。ですが、そもそも「承認」は他者の基準、他者の視点から始まります。そんな承認ばかりを追い求めると自分らしく生きることができません。他人の物差しで測られた承認を求めて必死に生きることは馬鹿らしいことなのだと悟れば、承認欲求も弱まるのではないでしょうか。
誰かに認めてもらいたい、ここにいていいのだよと言ってもらいたい。これは肉体が「水を飲みたい、パンを食べたい」と欲するのと同じように根源的な精神の叫びでもあります。人は人とつながらなくては生きていけません。「自分が自分らしく、周囲に貢献できる方法は何か」を常に自問しつつ、周囲からの承認は方向修正の参考程度に留めるのです。これが、承認欲求と上手く付き合いながらも自分を見失わないコツかもしれません。