ベーシックインカムとは政府が国民に基本的(Basic)な所得(Income)を保証する制度です。世界で注目されるベーシックインカム。2018年4月には、フィンランドがベーシックインカムの試験運用を延長しないと決定したニュースをBBCが伝えています。この記事ではベーシックインカムのメリットとデメリット・導入の課題・フィンランドの試験運用例などをご紹介します。
目次
ベーシックインカムとは
ベーシックインカムとは、政府が国民に基本的(Basic)な所得(Income)を保証する制度です。就労状況・勤労の意志・資産の有無・年齢・性別・所得などに関係なく、無条件で一定の所得を保証します。一律所得保証・基礎所得保証とも呼ばれます。また、英字表現の頭文字をとりBIと表現されることも多いです。
フィンランドは、2017年1月から2年間の計画で試験的にベーシックインカム制度を運用していました。失業中の2000人に毎月一律560ユーロ(約7万4300円)がベーシックインカムとして支払われました。国家レベルでは欧州初のこの取り組みは、世界中から強い関心を集めました。
もし、日本でベーシックインカムが導入されるとしたらどのようなことが起こるのでしょうか。財源の面から、年金や生活保護といった社会保障制度の廃止が予想されます。その理由は、以下の通りです。
総国家予算約100兆円に対してベーシックインカムに必要な予算は100兆円規模と想定されます。現行の社会保障制度とベーシックインカム両方を同時に運用することは現実的ではないのです。
ベーシックインカムは無条件ですべての人に一定額を支給する制度です。そのため、ベーシックインカムを導入すれば、それまで年金や生活保護を支給するために発生していた多大なコストを根本から削減することが可能となります。
ベーシックインカムの3つのメリット
ベーシックインカム導入により一定の収入が保証されることで、人々の行動や人生は大きく変わるでしょう。ここではベーシックインカムの3つのメリットについて紹介いたします。
1. 働き方が多様化する
多くの人は人生における大半の時間を「生活をするための労働」に割いています。ベーシックインカム制度を導入することで「生活をするための労働」に従来ほど時間を費やす必要はなくなると考えられます。
従来のお金の稼ぎ方に執着する必要がなくなった人の中には、本来やりたかったことにチャレンジする人も出てくるでしょう。
例えば、ビジネスに失敗して生活苦に陥るのを恐れて起業を諦めていた人もいるでしょう。ベーシックインカムが導入されれば、安定した収入を確保できます。なので、起業家としての挑戦がしやすくなると言えます。
また、画家や音楽家など、アーティストとしての道を断念していた人もいると思います。起業家と同様、ベーシックインカムにより生計を立てやすくなり、アーティスト活動に打ち込めるようになるでしょう。
このように、ベーシックインカムの導入で人々の働き方が多様化すると予測されます。
2. 金銭的な不安から開放される
金銭的な余裕ができることはベーシックインカム導入の大きなメリットの一つです。
1985年の男女雇用機会均等法の成立を機に、女性が社会進出するようになりました。一方で、バブル崩壊とともにデフレが蔓延化。収入が下がり、非正規雇用労働者の数も増えました。
現在の日本では、共働き世帯が一般的になっています。では、共働き世帯が金銭的不安を感じる要因を考えてみましょう。以下の内容が要因として挙げられます。
- 育休の取得可能期間が短い
- 待機児童が多く、子供を預けられず母親(妻)が仕事復帰できない
- 子供が小学1年生になると、学童保育の預かり時間が短すぎて仕事を辞めざるをえない
- 経済成長の低迷により、父親(夫)の収入が増加しない
日本で子供一人を公立で大学卒業まで育てるには教育費だけで約3,000万円が必要だと言われています。出産・育児には長期的に多額のコストがかかるのです。母親が仕事復帰できない、父親の収入が上がらない子育て世帯は、金銭的に大きな不安を抱えています。
ベーシックインカムがあれば、出産や育児中も一定額の収入があります。子供を産んで育てる間も収入があれば心の余裕にも繋がることでしょう。その上、ベーシックインカムは「年齢」の制限がありませんので、子供を産めば産むほど収入が増えます。もちろん支給金額にもよるでしょうが、子供を出産することを従来ほどリスクとして考える女性は減るのではないでしょうか。
ベーシックインカムの導入は少子化解決の重要な糸口だと思います。
3. ブラック企業がなくなる?
そもそもブラック企業はどうして成り立っているのでしょうか。ブラック企業が存在する理由の一つとして、「社員が会社をやめられない」ことが考えられます。
低賃金で長時間労働、おまけにパワハラが横行している劣悪労働環境。そんな環境でも体にムチを打ってまで働く社員は、退職後の生活に不安があるのでブラック企業を辞められません。つまりは、退職後収入がなくなるためブラック企業であってもなかなか退職ができないのです。
ベーシックインカムが導入されれば、一定額の収入がありますでのブラック企業で働く必要がなくなります。条件に見合っていないひどい企業であれば、辞めてしまえばいいのです。
退職して一定の収入を得ながら、余裕を持って転職活動することができるようになるでしょう。社員がいなくなった企業は存続できません。よって世の中から「ブラック企業」は存在しなくなることが予測されます。
また、今まで誰もやりたがらなかったような仕事の給料も上がるはずです。不当な賃金で大変な仕事を請け負う必要はなくなると考えられます。ベーシックインカムが導入されることで国民は仕事に正当な対価を求めることができるようになるのです。
ベーシックインカム2つの課題
ここまでベーシックインカムのメリットを説明しました。「いいことばかりで怪しい。何故今すぐ導入しないの? 」と思われる方もいるのではないでしょうか。
ここでは、ベーシックインカム導入ですでに指摘されている2つの課題を紹介します。1つ目は財源の確保が困難である点、2つ目は働かない人が増加する点です。
1. 財源の確保
日本人1人が最低限生きていける額を、フィンランドのベーシックインカム導入実験と同程度の、月約7万円と仮定しましょう。
日本の全国民(約1億2700万人)を賄うには、1月あたり8兆4000億円が必要です。年間にすると100兆8,000億円にもなります。
では、ベージックインカムに必要な金額を日本政府は捻出できるのか、2018年度の日本の国家予算から考えてみましょう。
2018年度の社会保障関連歳出予算は約33兆円です。社会保障制度の予算をベーシックインカムに回すだけでは、ベーシックインカム導入は叶いません。
手っ取り早い資金確保は、増税ですね。2018年度一般会計歳入予算は約97兆円。そのうち税収は以下の通りです。
税区分 | 税額(おおよそ) |
所得税 | 19兆円 |
法人税 | 12.1兆円 |
消費税 | 17.5兆円 |
その他 | 10.3兆円 |
消費税を財源にするとします。現在8%の消費税を24%へ増税すると、35兆円増の約52.5兆円を確保できます。社会保障関連予算約33兆円と合算すると約85.5兆円です。消費税増税をして税収を増やしても、前述の年間100兆円を確保できないことが分かります。
歳入予算のうち33兆円超を新規国債発行に頼っている日本。少子高齢化により年々膨らみ続ける社会保障の財源を借金依存の予算編成で長年ごまかし続けてきました。
ベーシックインカム導入を実現化する為には、今までにないレベルでの税収改革が必要。ベーシックインカムの必要性を認知させ、大幅な増税を国民に真に理解してもらうことが重要です。政府は、今こそ本腰を入れて綱渡りの財政運営をストップすべきでしょう。
2. 働かない人が増えるかも
何もしなくても最低限度の生活ができるのであれば、働きたくない人は増えるかもしれません。
サービス業で考えてみましょう。土日に働きたい人がいなければ、土日営業ができなくなります。もし国民の労働意欲が大きく低下するような事態になれば、国際社会での日本の競争力は低下することになるでしょう。
ベーシックインカムの導入実験例
世界中で導入が議論されているベーシックインカム。世界では導入した事例が複数あります。ここでは、フィンランド、カナダ、スイスのベーシックインカム導入事例を紹介します。
事例1:フィンランド
2017年1月から2年間の計画で失業者2,000人に一律で毎月560ユーロ(7万4,300円)が支給されました。フィンランドの事例は、国家レベルでは欧州で初めての取り組みとして、世界中から注目されました。しかしフィンランド政府は、試験運用を予定通り2年間の計画満了と同時に終了することを発表。ベーシックインカムの運用は延期しないことを公表しました。
ベーシックインカムとは別の方法を社会保障制度改革として検討しているとのことです。ベーシックインカム試験運用で得られた知見は、2019年末まで発表しないと発表されました。
事例2:カナダ オンタリオ州
2017年7月から3年間の計画でベーシックインカムの試験導入を開始。当時の予算は約5,000万ドル(約55億円)と世界最大規模のベーシックインカムの導入実験として注目されていました。カナダオンタリオ州の4,000人近い人が毎月ベーシックインカムを無条件で受け取っていました。
受給額は以下の通りです。
・年収3万4000カナダドル(約292万円)以下の人→年間最大1万7000カナダドル(約146万円)
・年収4万8000カナダドル(約412万円)以下のカップル→年間最大2万4000ドル(206万円)
所得の50%ほどの金額を受け取っていたと現地では報道されています。
2018年7月31日、オンタリオ州の新首相ダグ・フォード氏はこの導入実験の打ち切りを決定しました。フォード氏は選挙期間中にこの導入実験の打ち切りを訴えていたのです。莫大な費用を要した導入実験に市民からの賛同は得られなかったのでしょう。
スイスでは国民投票でベーシックインカム導入が否決されていた
2016年にスイスではベーシックインカムを巡る国民投票が行われました。結果は、否決。
ベーシックインカムの予定月額はなんと28万円。高すぎるという理由で国民の賛同を得られませんでした。スイス国民は高すぎる設定額に、財政が立ち行かなくなる危機感を感じたのでしょう。
AIで失業する人をベーシックインカムで救う?
AI(人工知能)の進歩によって、大失業時代が来ると言われています。AIによる仕事の自動化によって消滅する仕事は、10年後には現在の仕事全体の約2割。20年後には約5割にもなると言われています。
近い将来、AIに仕事を奪われた失業者たちが街に溢れるかもしれません。これは日本だけではなく、世界共通の問題です。
AIが出来ないことを提供できる人間でなければ、仕事は得られません。大失業時代のセーフティネットとしても、ベーシックインカムの導入が注目されているのです。
世界中で注目されているベーシックインカムについて説明しました。金銭的な不安から開放されて、自分の好きなことを仕事にできる社会は理想的ですね。もし日本でベーシックインカムが導入されたら、あなたはどうしますか?