自分を知る
2018.09.28

プレゼンティズムが仕事の生産性低下を招く

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
BY 川村大和

プレゼンティズムやアブセンティズムは、仕事の生産性について考える際に重要な概念です。プレゼンティズムは、仕事の生産性を大幅に下げてしまいます。アメリカの研究では、プレゼンティズムは企業に大きな損害を与えるという結果が出ています。今回はプレゼンティズムやアブセンティズムとは何かを解説していきます。

プレゼンティズム(presenteeism)とは

プレゼンティズムとは、出勤していながらも、体調不良やメンタルヘルス不調などが原因で、従業員のパフォーマンスが低下している状態を指します。プレゼンティズムの従業員には以下のような悪影響が生じます。

  • ケアレスミスの増加
  • 作業効率の低下
  • 判断力の低下
  • 集中力の低下

軽めの風邪や花粉症、睡眠不足、二日酔いなど体調が万全でない状態では、商談や会議に集中できないでしょう。単純作業であっても注意力の低下からミスを頻発する可能性が高くなります。しかし、出勤して業務に取り組んでいるので、深刻な問題と捉えられてきませんでした。

アメリカではプレゼンティズムの影響で、年間1,500億ドル(約15兆円)の損失が出ていると言われています。日本では、効率よりも頑張りが評価されている傾向が残っています。プレゼンティズムの問題は日本にとっても深刻な問題です。

体調不良を感じていると作業効率が著しく下がる

花粉症や睡眠障害、生活習慣病など体調不良の種類はさまざま。気象予測サービスを運営する株式会社ウェザーニューズが、2015年に「第二回花粉症調査」というアンケート調査を行っています。花粉は仕事に影響するかという質問に3,897人が回答。81%の人が影響すると答えています。また、仕事の能率がどれくらい下がったかという質問に対しては、30%下がったと回答している人が最も多かったです。

また、2011年にトレンド総研が「風邪対策」に関する調査を行っています。20~39歳の働く男女500人が回答。71%の人が風邪が原因で仕事に支障をきたしたことがあると答えています。「風邪をひくと、仕事の能率は何割低下すると思いますか」という質問の回答を平均すると、4.8割低下するという結果が出ています。

なんで体調が悪くても出勤するの?

「多少の体調不良であれば出勤して当たり前」という古くからの企業風土がプレゼンティズムの原因の一つといえます。

株式会社ウェザーニューズは2011年に「日本の風邪事情」を調査。風邪に関するアンケートにウェザーニュースの利用者20,175人が回答しました。

「熱が出たら何度で学校・仕事を休みますか」という質問に対して、回答の全体平均は37.94℃という結果が出ています。

学校・仕事を休む発熱の年代平均
20代未満 37.75℃
20代 37.99℃
30代 37.97℃
40代 37.93℃

※表は「日本の風邪事情調査」のデータを基に筆者が作成

20~30代の働き盛りの人たちのデータを見ると、仕事を休むボーダーラインは37.9℃と言えます。一方、医師と患者をむずぶメディカルサービス・イシコメが2018年に行った調査「発熱した体温別(37度・38度・39度以上)の適した対処法は?医師518人に聞いてみました」では、37℃台の熱に気が付いた際には「家で安静にする」と答えた医師が69%と最も多い結果でした。37℃台の発熱は、病院にかからないまでも、水分補給をして家で安静にする必要があると医師は判断しています。

なぜ体調が悪いのに会社に行く人が多いのでしょうか。イギリスのイースト・アングリア大学の調査「Research reveals main reasons why people go to work when ill」を参照します。2015年に大学の卒業生を中心に約34ヶ国、約175,960人の協力を得て、プレゼンティズムに関する意識調査を行っています。

調査の結果、仕事への責任感がプレゼンティズムに影響することが分かっています。任されている仕事や職場の人手不足を考慮して「自分が休むわけにはいかない」と感じるのでしょう。

また調査では、同僚や上司との関係が良好な人は、体調が悪いときにしっかり休むという結果も出ています。サポート体制が整っているので安心して休めるのです。

職場で十分なサポートを受けられないと、「仕事の遅れは自分で取り返さなければならない」というプレッシャーや不安を感じてしまいます。そのため仕事を休みづらいのでしょう。

他にも以下のような人は、体調が悪くても仕事に向かう傾向があるようです。

  • 金銭的な不安を抱えている人
  • 慢性的な持病を抱えている人
  • 他人に上手く仕事を振り分けられない人

アブセンティズム(absenteeism)とは

プレゼンティズムと比較される概念に、アブセンティズムがあります。個人が体調不調やメンタルヘルス不調などを抱え、欠勤や休職、遅刻、早退をしてしまう状態を指します。

社員の欠勤や休職、遅刻、早退で業務に就けない人が増えると、チームの生産性が低下したり、企業の業績が落ちたりします。そのため労務管理でアブセンティズムの対策が取られてきました。

しかし近年は、アブセンティズムよりもプレゼンティズムのほうが深刻な問題だと認識されつつあります。

プレゼンティズム対策としての健康経営

仕事の生産性を向上させる対策として「健康経営」という考え方があります。健康経営という言葉は、NPO法人健康経営研究会の登録商標。以下のように定義されています。

健康経営とは、「企業が従業員の健康に配慮することによって、経営面においても大きな成果が期待できる」との基盤に立って、健康管理を経営的視点から考え、戦略的に実践することを意味しています。

出典:健康経営とは|NPO法人健康経営研究会

健康経営は、アメリカの経営学・心理学ロバート・ローゼン氏のヘルシーカンパニー思想を発展させた考え方です。ローゼン氏は、1980年代に「健康な従業員がこそが収益の高い会社を作る」というヘルシーカンパニー思想を提唱。「ヘルシー・カンパニー―人的資源の活用とストレス管理」という書籍で、米国の主要企業200社の事例を基にした分析を発表しています。個人の健康増進と企業の業績向上の関係や改善のノウハウを伝えています。

従業員の健康を重要な経営指標と考え、健康増進に積極的に取り組むと、企業は以下のようなメリットを得られます。

  • 保険費・医療費などの経費削減
  • 生産性の向上
  • 従業員のクリエイティビティ向上
  • 企業イメージの向上
  • 労働災害の防止や従業員の退職などさまざまなリスクの軽減

企業は従業員の健康増進のために、休暇制度を整えたり、社員食堂でヘルシーランチを提供したりさまざまな施策を行うででしょう。健康経営の取り組みが進めば、労働者にとって働きやすい環境が増えていきます。

プレゼンティズムによる生産性の低下は大きなコスト

健康経営では従業員の健康に関わるコストを直接的な医療費と、間接的な労働生産性損失費用(プレゼンティズムやアブセンティズム)を総合して算出します。厚生労働省保健局が「データヘルス・健康経営を推進するためのコラボヘルスガイドライン」が健康関連コストについて調査。その結果、プレゼンティズムのコストが77.9%という結果が出ました。労働生産性を低下させるプレゼンティズムへの対策の必要性がデータで証明されています。

健康に関するコストのうち直接費用は対症療法です。生産性を向上させるためには体調不良やメンタルヘルス不良の予防など、対処療法が必要と考えられています。

政府の健康経営に関する取り組み

経済産業省が2015年に「アクションプラン2015」を発表してから、日本でも健康経営への取り組みが進んでいます。今回は「健康経営優良法人認定制度」と「健康経営銘柄」を紹介します。

健康経営優良法人認定制度

経済産業省は「健康経営優良法人制度」を新設。健康経営を実践している大企業や中小企業を顕彰する制度です。健康経営に取り組む優良法人を広く公表することで、企業が社会的に評価される環境を作っています。第2回となる2018年には、大企業から541、中小企業から776の法人が健康経営優良法人として認定されました。

健康経営優良法人に認定された企業は、従業員や求職者、関係企業や金融機関などからのイメージ向上を狙えるでしょう。

健康経営銘柄

2015年から経産省と東京証券取所が、健康経営を実践している優れた企業を「健康経営銘柄」として選定・公表しています。「企業による「健康投資」に関する情報開示について」という資料を見てみましょう。従業員の健康に投資している企業は他の企業よりも高い株価を記録しているというデータが紹介されています。

投資家にとって健康経営を実践している企業は魅力的なはずです。健康経営銘柄を選定することで、健康経営に取り組む企業を増やしてくことが狙いです。2015年から選定が始まり、2018年には過去最高となる26銘柄が選定されています。

健康経営を実践している企業

健康経営を実践すれば、従業員のプレゼンティズムを防げます。従業員の健康のためにさまざまな取り組みを行っている企業を紹介します。

株式会社大和証券グループ本社

株式会社大和証券グループ本社は2015年から4年連続で健康優良銘柄に選定されています。CHO(Chief Health Officer、最高健康責任者)を設置して、健康経営のためのさまざま取り組みを行っています。

中でも特徴的なのは「KA・RA・DAいきいきプロジェクト~Healthy Lifestyle~」という取り組み。以下のような健康増進のためのイベントに参加した社員にポイントを付与して、健康関係グッズや健康飲料、TABLE FOR TWOへの寄付などの景品と交換できるプログラムです。

大和証券グループの健康イベント

  • ウォーキングチャレンジ:希望者が一斉に3か月間一日一万歩を目標にウォーキングに挑戦
  • 禁煙プログラム、及び、希望者が一斉に挑戦する禁煙チャレンジ
  • ハラハチ(腹八分目プログラム):希望者が一斉に1か月間腹八分目に挑戦
  • 健康リテラシー講座 :ヘルスリテラシーの向上のための生活習慣病、運動、栄養、メンタルヘルスに関する学習

出所:健康経営:株式会社大和証券グループ本社

株式会社タニタ

タニタといえば、体脂肪計や体組成計や有名なメーカー。社員の健康増進のために作られた「タニタ食堂」で話題になりました。社員の健康への取り組みは2008年から始めており、2018年には健康優良法人に認定されています。

2009年に「タニタ健康プログラム」を実施してから年々健康経営への取り組みをブラッシュアップしています。「タニタ健康プログラム2017」では、活動量計の機能をもった社員証を配布。日々の消費エネルギーを計測して、従業員の健康な体作りをサポートしています。

タニタの健康経営への取り組み

  • 全社員で就業開始時にソフトエキスパンダーを使ったエクササイズ
  • 食事管理アプリ「ヘルスプラネットフード」のSNS機能を使って、食生活への意識向上
  • 社内に設置したデジタルサイネージで歩数ランキングなどを掲出。健康プログラムへの参加を促進

出所:健康経営への取り組み―「タニタ健康プログラム2017」|株式会社タニタ

ヤフー株式会社

ヤフー株式会社は日本最大級のポータルサイト「Yahoo! JAPAN」を運営するIT企業です。CEOの川邊健太郎氏が自らCCO(Chief Conditioning Officer、最高コンディション責任者)に就任して、従業員の健康への取り組みを進めています。「健康保持にとどまらず、従業員のコンディションをベストにする」という川鍋氏の思いを込めて、CHO(Chief Health Officer)にあたる役職をCCOと名称しています。取り組みの結果、2018年に、健康経営優良法人として認定されています。

体調不良やメンタルヘルス不調の「予防」、傷病休職や治療をしている人の「就労支援」、快適な「オフィス環境」という3つの観点で従業員のコンディションをベストにするための取り組みを進めています。

ヤフーの健康経営への取り組み

  • 社内レストラン & カフェ(BASE & CAMP):社員が社内レストランで摂取した栄養データを可視化
  • セミナー開催:食育セミナー、睡眠と健康セミナー、塩分対策セミナーなど
  • 過重労働対策:一定時間以上の時間外労働実施者に、勤怠管理システム上でアラート通知。また上長に対して注意喚起を行う
  • 傷病休職者への支援:復職支援プログラムをもとに、円滑に職場復帰をできるようにサポート
  • 休養室:就業時間中の体調不良で、一時的に休養する場所を準備。男女別の休養室を全国各地のオフィス・営業所に設置
  • 花粉症対策フロア設置:10秒で花粉を落とせるエアシャワーと、空間清浄機を整備
  • マッサージ室:専門の資格を有するヘルスキーパーの施術を受けられる。従業員の身体疲労回復やストレス解消をサポート

出所:従業員の健康|ヤフー株式会社

中でも面白いのは、社内レストランで取った食事の栄養データが記録される点です。データを基にメニュー改善の提案などを行っています。他にも朝食を無料で提携している点も働く人には嬉しいポイントです。

プレゼンティズム対策には個人の健康管理も重要

プレゼンティズムによる生産性の低下は、組織レベルで改善に取り組むべき課題です。しかし、個人レベルでも、生活習慣や体調管理に気をつければ、プレゼンティズムを改善できます。医療生協が推進する8つの生活習慣を意識して生活しましょう。

健康増進の生活習慣
1 生活リズムを整え快適な睡眠をとる ・1日、7~8時間の睡眠をとる
2 心身の疲労を避け、十分な休養をとる ・11時間以上の長時間労働を避ける

・最低週1回の休養をとり、心身をリフレッシュさせる

3 禁煙に取り組む ・喫煙のデメリットを学び、禁煙する
4 過度の飲酒をしない ・1日の飲酒量を、日本酒1合(もしくはビール中瓶1本)に収める

・週2日、お酒を飲まない休肝日を設ける

5 適度な運動を定期的に続ける ・週3日、30分以上の運動をする習慣を作る

・ストレッチや筋力トレーニングを行う

6 低塩分、低脂肪のバランスのよい食事をとる ・塩分は1日8g以下を目標にバランスのよい食事をとる

・ 低脂肪を基本に、バランスのよい食事をとる

7 間食せず、朝食をとる規則正しい食生活 ・ 夜食やおやつなど間食を避ける

・ 朝食を毎日とる

・ 家族や友人との楽しい食事の機会を増やす

8 一日一回以上汚れを落としきる歯磨きをする ・正しい歯のみがき方を身につける

・よく噛んで食べる

※えひめ医療生協の「8つの生活習慣、2つの健康指標」を基に筆者が表を作成。

 

 

プレゼンティズムやアブセンティズムの意味、これらによって引き起こされる生産性の低下問題などについて紹介してきました。現在、政府や企業が、労働者の健康増進に投資して生産性を向上させる「健康経営」の取り組みを進めています。生産性の向上で業績アップを図るとともに、無駄なコストを削減できるからです。

個人にとってもプレゼンティズムを脱して生産性を向上させるのは重要ですよね。生産性の高い仕事ができれば、周りからの評価も上がるでしょう。まずは個人レベルで生活習慣を見直して健康な心身を作りましょう。

最終更新日
2018.09.28

新卒・中途採用 "バイリンガルエンジニア" 募集中!

IT未経験から英語を生かすバイリンガルエンジニアへと、挑戦する方を募集しています。

募集要項はこちら