「休み方改革」という言葉を、どこかで耳や目にしたことはあるでしょうか。休み方改革は、働き方改革と同じく、日本政府が主導して取り組んでいます。働き方改革とは異なり、休み方を通して日本の労働者の生活の質の向上や持続的な日本経済の発展の実現を目指しています。今回はこの休み方改革について、詳しく解説していきます。
目次
休み方改革って知ってますか?
休み方改革は政府が2017年に提案した施策です。年次有給休暇の取得だけではなく、日常的な休養の取り方も扱っており、長時間労働を是正する取り組みでもあります。
休み方改革がこの取り組みで期待している効果は、大きく分けて4つあります。
- 在職中および定年退職後も含めた人生を充実させる
- 十分に休養を取ることでリフレッシュし、仕事の効率の向上や創造性を高める
- 趣味などを通じた職場以外の人や家族との交流の機会が増加する
- 観光地に訪れる時間や地域活動に参加する時間が創出されることによる、地域の活性化
これらの4つの効果から、生産性の向上と消費活動の促進を促すのが目的です。労働人口が減っている現代日本で、持続的な経済発展を目指していくための取り組みです。
この取り組みの一環として、政府は働き方・休み方ポータルサイトを開設しています。このポータルサイトでは、企業向けと個人向けの自己診断や企業の取り組み事例、働き方・休み方改革に関するシンポジウムやセミナーの情報を得られます。時間があれば一度、自己診断を試してみるといいかもしれません。
休み方改革と働き方改革の違い
では、最近よく耳にする「働き方改革」とこの「休み方改革」の違いは、どういった部分なのでしょうか。休み方改革が目指しているのは、休みを取りやすい環境づくりを行政・企業で整えて、一人ひとりの理想的なワークライフバランスを実現していくことです。一方の働き方改革は一人ひとりの状況に合わせて、仕事がしやすい職場・労働環境を整えて行くことを目標とする取り組みです。
これら2つの改革は目的や働きかける方向性は異なります。しかし、労働環境や生活の質を改善するという大きな目標は同じです。この2つの改革は新しい仕事の仕方、人生の送り方の実現を目指すための両輪をなすものと言えます。
休み方改革の取り組み例
厚生労働省は有給休暇取得を推進のために継続して取り組んでいます。取り組みの一つとして毎年10月を「年次有給休暇取得促進期間」に設定。9~11月は3連休が多いので、連休に合わせて有給休暇を取得する人を増やそうという狙いがあります。
同様の取り組みとして「仕事休もっ化計画」というキャッチコピーで、まとまった休みを取るという運動もあります。年末年始休暇やゴールデンウィーク、シルバーウィークなどに1・2日の有給休暇をくっつけて長期休みを作り出すように働きかけています。
他にも、休み方改革では具体的に4つの取り組みが提唱されています。ここでは1つ1つの取り組みを詳しく見ていきます。
休み方改革例1:プレミアムフライデー
プレミアムフライデーは、すでに多くの方が知っているのではないでしょうか。プレミアムフライデーは2017年2月から経済産業省の主導で始められた取り組みで、生活の充実感や消費の拡大を目指しています。この取り組みでは、毎月の最終金曜日に退勤時間を15時に早めることが提唱されていました。また、飲食店を中心にプレミアムフライデーのための特別メニューを用意するなどの取り組みもされています。
しかし、「月末の金曜日に15時退勤」に限定した取り組みは、定着していないのが実情です。理由としては、業務上15時退勤に対応できる企業や労働者が少ないことが挙げられます。この定着していない状況を受けて、経済産業省はプレミアムフライデーを「毎月の最終金曜日を中心として15時に限らず退勤時間を通常より早める取り組み」と一定の柔軟性を持たせた取り組みに変化させました。
休み方改革例2:シャイニングマンデー
プレミアムフライデーと同じく経済産業省が主導している、2018年7月に検討中であることが発表された制度です。プレミアムフライデーの振り替えとして月曜の午前中に半休を取るという内容で、週末を自由に過ごしやすくなる、という考えのもと検討されています。
しかし、2018年7月に制度の実施を検討しているという報道が出た後は、プレミアムフライデーと同様に実際の仕事に即していない制度という印象が強く、利用率は低くなるのではないか、同じように失敗するのではないか、というネガティブな意見が多くあがっています。
休み方改革例3:キッズウィーク
キッズウィークは2018年から厚生労働省の主導で始まった新しい施策です。地域ごとに学校の夏休みなど長期休みの一部を他の時期に移すと共に、その時期に合わせて保護者も年次有給休暇を取得できるよう企業に働きかけるというものです。
この取り組みの目標は、子供と親が同じ時期に休みを取ることで、家族で一緒に過ごせる休暇を実現することです。またこの制度では、ゴールデンウィークやお盆など、多くの企業が休みとなる時期とは異なる時にまとまった休みを取ることが可能です。そのため、行楽地の混雑や交通費や宿泊費の高騰を気にせずに出かけられるというメリットがあり、消費の促進効果も期待されています。また、特に大規模な祭事がある地域では、祭事に合わせて休暇を取得してもらい、地域活動の担い手や文化継承者を確保することが期待されています。
子を持つ親にとっては嬉しい制度のように見えますが、すでに課題が指摘されています。
- 親がキッズウィーク対象地域外に通勤している場合、地域外の企業からどのように協力を取り付けるのか
- 子供が私立の学校やキッズウィーク対象地域外の学校に通学している場合、学校から理解を得られるか
- 地域のお祭りに休みを合わせた場合、休暇の過ごし方についての干渉になる
こうした課題をクリアして、キッズウィークを新しい家族の休暇の形として定着させられるのか。これからの取り組みが注目されます。
休み方改革例4:プラスワン休暇
こちらも厚生労働省が主導する施策です。取り組みの内容は、土日や祝日、夏季休暇などに、もう一日年次有給休暇を加えることを推奨するものです。
この取り組みの大きなポイントは「計画的付与制度」です。計画的付与制度は労使協定の合意がある場合、企業が年次有給休暇の一部の日付を指定できる制度です。指定できる日数は、年次有給休暇として付与されている日数から5日を除いた日数を最大としています。この制度を利用すると、労働者は計画的に年次有給休暇を取得できるので、気兼ねなく休めます。また、企業側は事業計画を調整しやすくなるというメリットがあります。
計画的付与制度は3種類の方式が存在します。
- 一斉付与方式……全従業員に対して同一の日に付与
- 交代制付与方式……班・グループ別に交代で付与
- 個人別付与方式……従業員個人ごとに付与
こうした3つの方式で、製造業やサービス業など様々な業界で取り組みやすい制度となるように設計されています。
休めていない日本人
厚生労働省と経済産業省を中心に、プレミアムフライデーやプラスワン休暇などのさまざまな取り組みが行われています。しかし、実際にこの改革を知っている人、そして実際に休めている人はまだまだ少ないのが現状です。
休み方改革は半数の人が知らない
エアトリ(旧DeNAトラベル)が2018年3月に実施した「休み方改革」についての調査では、調査対象の46.7%と半数近くの人が「休み方改革」のことを知らないと答えています。また、調査対象者の勤め先で「休み方改革」が導入されているか、という質問に対して「はい」と答えた人は10.2%、「導入予定」と答えた人は4.0%でした。つまり、86%近くの人の職場では「休み方改革」の実施が予定されていないのです。「休み方改革」の認知度と各企業の導入率の向上にむけた取り組みが必要という状況がうかがえます。
有給休暇の取得率は世界で最下位
国 | 支給日数 | 消化日数 | 消化率 |
ブラジル | 30日 | 30日 | 100% |
フランス | 30日 | 30日 | 100% |
スペイン | 30日 | 30日 | 100% |
オーストリア | 25日 | 25日 | 100% |
香港 | 14日 | 14日 | 100% |
シンガポール | 15日 | 14日 | 93% |
メキシコ | 14日 | 12日 | 86% |
日本 | 20日 | 10日 | 50% |
旅行会社エクスペディアが2016年に実施した「世界30ヶ国 有給休暇・国際比較調査2017」によると、日本の有給消化率は50%と、30ヶ国中最下位でした。また、有給休暇の取得に「罪悪感がある」と答えた日本人は63%でした。
調査によると、日本人が休みを取らないのは「人手不足」や「同僚が働いているから」という理由が見られました。本来、休む環境を整えるのは会社側の義務です。労働者は有給休暇を取得する権利を持っています。それにも関わらず休みを取れている日本人は少ないです。職場の空気を読まなければならない環境で働いている人が多いのではないでしょうか。
休むことへの意識を変えよう
従来の働き方・休み方に対する改革が政府主導で始められていますが、まだ実際の労働者の働き方や休み方の変化が現れているといえません。自分らしく働くため、そして仕事の生産性を高めるためには、しっかりと休むことが大切です。
休むためには制度が作られるのを待つのではなく、自らスケジュールや仕事の管理を行い、計画立てて休む必要があります。また、日ごろから上司や同僚と年次有給休暇の取得について気軽に話せる環境を作っていく必要もあります。休みの予定を立てて、そこに向けて仕事のスケジュールを組む、不在時に別の人でも対応できるように用意するなど、休むための取り組みを主体的に始めてみましょう。
休み方改革の概要や取り組み例、日本人の休み方に対する意識の解説は以上です。自分らしく生きるため、仕事の効率を高く保つために、働き方だけでなく休み方についても一度じっくり考えてみる機会を持ってみてはいかがでしょうか。