ワークライフインテグレーションという言葉を聞いたことはありますか? 「仕事もプライベートも充実させ、人生を豊かにする」という働き方に関する考え方です。
ワークライフバランスを知っている人は多いと思います。しかし、実際には仕事とプライベートのバランスを取るのが難しく、どちらかが疎かになってしまっている人が多いのではないでしょうか。ワークライフインテグレーションという考え方を基にした、新しい働き方を取り入れてみませんか?
本記事では、ワークライフインテグレーションとは何かを解説します。また、導入の難しさや実例も併せて紹介します。
目次
ワークライフインテグレーションとは?
ワークライフインテグレーションとは、仕事(ワーク)とプライベート(ライフ)を別々に捉えるのではなく、仕事もプライベートも人生の一部として統合的に捉える働き方です。働くように生活し、また生活するように働けば、仕事とプライベートが相乗効果を生み、生産性や生活全体の質を向上させられると考えられています。
つまり、ワークライフインテグレーションを自分の人生に取り入れると、充実感や幸福感が増すのです。シリコンバレーのテック企業では、ワークライフインテグレーションが浸透しているようです。
「残業ほぼナシ」「勤務時間自由」「リモートワークOK」「有給無制限」そんな夢のようなホワイト企業があるだろうか?と思うかもしれないが、実はこれ、ここシリコンバレーやサンフランシスコ周辺では結構当たり前になってきている勤労習慣である。
出典:【ワークライフバランスはもう古い】新しい働き方、ワークライフインテグレーションとは|freshtrax
実は、2008年に経済同友会が『21世紀の新しい働き方「ワーク&ライフ インテグレーション」を目指して』でワークライフバランスの重要性を発表しています。しかしワークライフインテグレーションへの企業の取組みは一部にとどまり、働く人もあまり意識はしていません。日本人がワークライフインテグレーションの考え方に慣れるには、まだまだ時間がかかりそうです。
ワークライフバランスとの違い
近年は、日本でもワークライフバランスに関心が寄せられ、その意識も浸透してきました。政府が「仕事と生活の調和(ワーク・ライフ・バランス)憲章」を定めて積極的に推進してきた影響もあるでしょう。
ワークライフインテグレーションは以下の2点においてワークライフバランスと異なります。
・ワークとライフの捉え方
・対象者
ワークライフバランスとは、仕事とプライベートを両立して、双方の調和の実現を目指す考え方です。仕事にやりがいを感じて責任を果たしていく一方で、プライベートの時間もしっかりと確保し、公使ともに充実した豊かな生活を手に入れようとします。
しかし、日本の労働者の多くはワークライフバランスを勘違いしています。ワークライフバランスにおける仕事とプライベートを、対極視点で捉えている人が多いでしょう。企業の取り組みにおいても、どちらかを増やせば、もう一方は減るという時間配分で実現しようとする側面が目立ちます。
また、日本の政策においては、直面している少子化対策や育児支援対策の色も濃いようです。ワークライフバランスでは、おのずと該当者が絞られてしまっているのではないでしょうか。
ワークライフインテグレーションの対象は労働者全体です。まだ働きたい高齢者やキャリアアップを目指す若者世代も含んで考えられています。
もちろん、ワークライフインテグレーションにも、時間配分的要素は含まれます。ですが、働く場所やマルチジョブ、組織の属性、学び、キャリアのルートなど、多様な働き方に対応できるのがワークライフインテグレーションの特徴です。今、時代の流れは、ライフワークインテグレーションにシフトしつつあります。
ライフワークインテグレーションのメリット
ライフワークインテグレーションを実現できると、「柔軟に働ける」「仕事と家庭を両立できる」「人生を豊かにできる」「個人の能力が向上する」「生産性の向上につながる」というメリットがあります。これらのメリットを詳しく見ていきましょう。
柔軟に働ける
時短勤務、在宅勤務、毎日の勤務時間の調整など、多様な働き方が可能になり、働き方の柔軟性が増します。昨今は、正社員か非正規かの括りも薄れるほど、働き方の選択肢は増えています。
自分のライフスタイルに合う働き方の選択が可能になります。例えば、郵便局に行くためにわざわざ午前休を取得する必要はなくなるのです。それにより、仕事やプライベートでやりたいことを諦めずに済むでしょう。
仕事と家庭を両立できる
ワークライフインテグレーションの意識を持って働けば、理想の人生を築いていけるでしょう。
仕事と家庭の両立に不安から、仕事で活躍のチャンスを逃したり、結婚や出産に踏み切れなかったりした人がいるのではないでしょうか。ライフワークインテグレーションの働き方なら、仕事と家庭の両方に費やす時間を確保できます。
人生を豊かにできる
ライフワークインテグレーションを実践すれば、自分で仕事も、働く時間も、休暇も調整が可能です。まとまった時間がなければ実行が難しかった活動ができたり、行きたかった場所に行けたり、会いたかった人との予定を合わせやすくなったりするでしょう。
また、仕事以外の学びを仕事に取り入れることも可能です。幅広い学びは、自分の視野を広げてくれますし、人生を豊かにしてくれるでしょう。
法律で労働時間に制限がかけられています。しかし実情は、仕事が生活の大部分を占める人が少なくありません。残業があったり、仕事や職場でのストレスを持ち帰ったり。本来、自由な時間のはずの16時間すら確保できていないのです。
個人の能力が向上する
ワークライフインテグレーションによって、習い事や受けたい講義やセミナーの時間にも合わせられるようになります。将来的なキャリアアップに向けて今やっておきたいことにも、日々、十分な学習時間を確保できるようになるのです。
また、自分で自分の時間と活動をコントロールする必要があるため、今ある仕事への集中力が高まり高いパフォーマンスを発揮できるでしょう。
仕事があるからと、新しい学びの機会を断念する必要はありません。一つの仕事に集中しすぎると、ストレスを感じて疲弊してしまうでしょう。講義やセミナーに参加すれば、気分をリフレッシュできる上に、仕事につながる学びを得ることができます。
生産性の向上につながる
ワークライフインテグレーションには仕事とプライベートに境界線がないため、双方での学び、経験、気づきを仕事にも生活にも取り込めるようになります。
自分で考える活動ですから、ポジティブにリラックスして取り組めるでしょう。どちらかを優先すると付きまといがちな、何かを犠牲にしているという罪悪感も減るはずです。つまり、ストレスが軽減されるわけです。
日々のストレスが軽減することで、個人のパフォーマンスを向上できます。個人のパフォーマンス向上は、企業や国の生産性向上にもつながるでしょう。
ワークライフインテグレーションには場所と時間の柔軟性と生産性が重要
ワークライフインテグレーションを実現するためには、どこでも、いつでも働ける仕組みが必要です。
欧米諸国では、ワークライフインテグレーションはすでに浸透しており、日本より生産性が高いと言われています。フレックスタイムや裁量労働制、リモートワークなどの多様な働き方は、すでに当たり前に活用されています。
日本でも働き方改革が活発化し、ワークライフインテグレーションを推進する企業が増えています。しかし、制度の利用者に対する周囲の理解度の低さや活用率の低さを見ると、これまでの日本の独特の慣習から完全に脱却しているとはいえないようです。
厳しすぎるセキュリティが働く場所と時間の柔軟性を妨げる
社員にリモートワークを許可しなかったり、会社のPCを持ち帰ることを禁じたりしている日本の企業は多いでしょう。この厳しいセキュリティ対策が、働く場所と時間の柔軟性を制限しています。
また、クラウドサービスをうまく活用できている企業も少ないでしょう。いつでもメールを確認できたり、会社のデータにアクセスできたりしなければ、ワークライフインテグレーションは実現できません。働く人が、好きな場所で好きな時間に仕事ができる環境作りが必要なのです。
ワークライフインテグレーションに馴染めない日本人
日本の労働者は、生産性を向上させる意識が低い傾向にあるようです。より多くの時間を仕事に費やした人が評価されたり、より多くの時間を仕事に費やすことで自分が頑張っているように感じたりしています。
ワークライフインテグレーションの実践で重要なのは生産性です。より少ない労働時間で、より大きな成果を出さなければなりません。仕事で結果を残さなければ、会社や上司から自由な働き方を認められないからです。生産性を向上させる意識を強く持たなければ、ワークライフインテグレーションで自分の人生を豊かにすることはできないでしょう。
ライフワークインテグレーションの取り組み例
日本でも、すでにライフワークインテグレーションに取り組んでいる企業があります。4社の事例をご紹介します。
日本アイ・ビー・エム株式会社
労働時間を、職種の特徴に合わせて変化させる制度が導入されています。SE職、コンサルタント職、研究開発職は裁量労働制、営業職は事業場外みなし労働時間制が導入されています。管理部門においてはフレックスタイム制が採用されています。
働く場所の制約を外すための、e-ワーク制度(部分的在宅勤務制度)、ホームオフィス制度(全日的在宅勤務制度)、サテライトオフィスの利用が可能です。
(参考:「職務等級制度と納得性の高い人事評価制度及び場所・時間を選ばない働き方に資する施策とモバイルツールの活用」による働き方・休み方|日本アイ・ビー・エム株式会社)
オリンパス株式会社
在宅勤務制度、労働時間短縮制度のほか、配偶者の転勤や介護、育児などで退職しなければならなかった社員が再入社を希望できる「リエントリー制度」が設けられています。
また、役割フレックス制度を設けています。この制度では、育児に専念しなければならない特別な事情が発生したときに、一時的に役職を離れることができます。対象者は子供が小学3年生以下の共働きの人や単身者のリーダー職にある社員です。
(参考:ワークライフインテグレーションの推進|オリンパスグループ企業情報サイト)
シェア社宅「月島荘」
月島荘は、業種・職種の異なる企業が利用する社宅、つまり「シェアする社宅」です。料理の持ち寄りパーティー、アイデアコンペ、飲み会などが開催されています。ジムや勉強室、会議室、ライブラリー、共同浴場などのスペースは、居住者の交流の場となっています。
営利活動は禁止されていますが、交流のやり取りの内容をリサーチ材料にしたり、勉強室での学習に励んだりする人もいるそうです。
(参考:ワークライフインテグレーションを体現する「シェア社宅」。オープン2年で見えてきたもの|WORKWORK MILL)
これまでの日本企業に普通にあった時間や場所の制限が、取り払われようとしています。国も企業も大転換が必要になりますが、働く側も意識のシフトが必要です。ライフワークインテグレーションを取り入れて、充実した仕事と豊かな人生を手に入れていきましょう。